ショートストーリー ヨーグルト

さっぱりした後味が鼻から抜ける。
冷たい喉越しに、しつこくないトロミは、硬くなったな頭を柔らかく溶かした。

目の前には、どうしても解けない知恵の輪。
かれこれ何時間、格闘していただろうか。
鍵型2つの金具を、右にねじって左にねじって、上も下も、触れるだけガチャガチャ触った。
なのに、手掛かり一つ見つからないまま三時間が過ぎた。

出かけることも許されないゴールデンウィークの暇つぶしに、いくつか買ったちょっと良い値段の知恵の輪。
まだ一つ目だというのに全然、分からない。

一緒に考えていたはずの旦那は、どこかに行ったまま帰ってこない。
普段使わない脳を使って、頭はすでにカラカラになって旦那の行方も考えたくなかった。

疲れて重くなった頭をテーブルに付ける。
勢い良く打ち付けてゴンと鈍い音がしたが、考えることもできなくなった頭は痛覚すら感じなくなっていた。
ひんやりしたテーブルは、頭の熱を取ってくれて気持ちが良かった。

「ただいま〜。鍵はずれた?」
溶けた脳味噌を冷やしていると、脳天気な旦那の声がした。
ぼけた頭で、どこかに出掛けていたことだけ把握したが、それ以上は考えたくなかった。
突っ伏したまま静かに首を横に振る。
目の前に座る旦那の気配だけを感じながら。
ドロドロに溶かされた脳では、その気配すらも処理しきれないようで少しばかり鬱陶しくなる。
どうせ笑ってるんだと、意味もない当て付けが浮かんでしまう。

目の前から、ガサガサと袋が擦れる音が聞こえて、ノイズ音に思わず眉間にしわ寄せた。
「疲れた時には、コレ」
目の前に何かが置かれた音がして、期待をしないで身体を持ち上げる。
脳天気な旦那のことだ。
私がダイエットに勤しんでいることなんて、忘れているに違いない。
もし、私の大好物のチョコだったら殴ってやる。
そんな物騒なことを思っていた。

だけど、目の前にあるのは小さな白いカップ。
「ダイエット中でも、疲れた脳にはおやつだよね」
そう言うと、袋からプラスチックスプーンを取り出して私に渡してくれた。
準備されたおやつにグゥとお腹もなり、問答無用でヨーグルトに手を伸ばす。
喉を通る冷たいトロミは、熱くなった脳も冷やしてくれた。

小さなスプーンで一口一口味わいながら、二人で知恵の輪の解き方をあーでもないこーでもないと話し合う。
外れた頃には、どんな運動よりも体力を削られたが変えがたい達成感があった。
ゴールデンウィーク中のダイニングテーブルには、知恵の輪とヨーグルトのカップがいつもセットで置かれていた。

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