ショートストーリー レモンティー
浮かんでいる輪切りのレモンは、光に照らされキラキラと光っている。
一口ずつ深みある香りを味わう。
渋すぎず、レモンも酸味も香りも邪魔することがない。
こんな適当に書いたのが入賞したら、俺の人生くれてやる。
そう言って、適当に書いただけの物語が入賞してしまった。
作家になりたくても芽が出ず、不貞腐れていたはずなのに、それだけで調子に乗れた。それは、たまたまラジオ番組で宣伝していた文学賞に出すことを、彼女が勧めてきた。
地元の小さな賞だからと力を脱いたのが良かったようだ。
優秀作品に選ばれた俺は、約束通り彼女に人生を捧げた。
籍を入れて、彼女の為に作品を書いた。そうしているうちに、自分の書いたシリーズ作品なんかが近所の本屋に並べられることになった。
「お茶が入りましたよ」
整えられたグレーヘアーが似合う妻が穏やかに書斎に入ってくる。
あのときのラジオは、壊れてしまった。だが、ラジオはあのときの記憶を呼び起こさせるので、耐えず音が流れている。
茶を啜る音とパーソナリティの小粋なギャグ、控えめに笑うパートナーは、至福をもたらす休憩時間だ。
茶にこだわる妻が、淹れた紅茶はいつも心に安らぎを与える。
せかされる締め切りも、この瞬間だけは少し遠のく。
紅茶と一口に言ってもレモンとの相性良し悪しがあるようだ。
レモンを入れると渋みが出るものもあるとか。
お隣さんからレモンを貰ったときに、買ったばかりの茶葉はレモンに合う。
たしか妻はそんなことを言っていた。
なんの茶葉だったか。
ダージリンかアールグレイか。
聞き馴染みがあることは確かだった。
思い出すことなく、ゆっくりと時間だけが過ぎティータイムが終わっていった。
あとでいいか。
と同じことを昨日も思ったことを今になって、思い出したりする。
こののんびりした時間がなんとも心地よく、問題をズルズルと後回しにしてしまうのだ。
沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。