ショートストーリー 韓国風肉じゃが

レシピのとおりに作ればカンタン。
料理上手な友達は皆そう言う。
私もそう思う。
だけど、そのレシピどおりっていうのが難しい。だってつまらないもの。

調理実習の時間になるといつも憂鬱。
今日もレシピを暗記して、あれだけ予習もしたのに、コロッケを爆発させ、味もひどく、砂糖より甘ったるい油の塊を誕生させた。
お母さんにそう言ったら
「料理の一つくらい覚えなさい」
とキッチンに立たされた。

去年、お母さんが私の為に作った染み一つないエプロンを無理矢理つけられ、料理本を見せられた。
ホクホクのじゃがいもととろけた玉ねぎと肉。
彩りの人参も糸こんにゃくも美味しそう。
「今日の夕食は肉じゃがだから手伝ってね」
お母さんはピーラーとじゃがいもを私に持たせて、一緒に下ごしらえをする。

私は口をへの字にしてイヤイヤ手伝った。
だって、レシピは頭に入っている。
レシピは見なくても、作り方は分かる。
作れないだけで。
「どうして、コロッケを甘くしたの」
お母さんは、包丁でスルスルとじゃがいもの皮をあっという間に剥き、トントンと軽やかなリズムで切っていく。
小学生の頃からお母さんの料理中に、悩みを打ち明けるのが習慣だった。
だからその音は、私の本音を引き出す。
「みたらし団子みたいな味になったら、美味しいんじゃないかって思ったらやってみたくなったの」
ザラメが多すぎたけどと肩をすくめる。

お母さんは驚いていたけど、次の瞬間には笑って
「芋餅なんてものもあるし、案外美味しかったかもね」
ザラメが少なかったらと、私の調子に合わせてくれた。
私が包丁でゆっくりとじゃがいもを一個切る間、お母さんは全ての材料を切って私を待ってくれていた。
お母さんは、隣でトン、トンと私の動かす包丁のリズムを合わせて頷いていた。

肉を炒めて、野菜も炒め、煮こむ。
包丁さばきはすこぶる遅いけど、ほかは問題なく進む。
煮込まれるのを待つ間、だんだんとつまらなくなってきて、私は料理に飽き始めていた。
洗い物も終わってやることもなく、家にあるあらゆる調味料を見て回る。
その時、ちょうど唐辛子や豆板醤が目についた。
なんだか、辛いものが無償に食べたくなる。

肉じゃがに入れたら、ピリピリして面白いかも。
そう思って、黙って鍋の中へ調味料を加えようとした。

お母さんは、私の奇行を目敏く見つけて
「なにしてるの?」
と私の背後に立った。
私の手には唐辛子の輪切りが盛られた状態。
学校の先生みたいに、そんなの駄目だって怒られるかも。
そう思って、背中で冷や汗をかいて警戒していた。
でも、そんな予想も虚しくお母さんは
「あら? それじゃ入れ過ぎよ」
と言って唐辛子をひとつまみ、二つまみして鍋に加えた。
そして、イタズラっ子な顔をして
「私はあなたの豊かな想像力好きよ。その力をを引き出すためにも基本を覚えてほしいのよ」
と言って、豆板醤も加えた。
私が思っていたよりずっと少なめに。

出来上がった肉じゃがは、レシピとは違う赤が混じっていた。
ピリ辛で、でも少し甘くて、普通の肉じゃがよりご飯が何杯も進む味になった。
レシピどおりじゃなくても、美味しかった。
それからは、頻繁にキッチンに立った。
レシピどおりじゃなくても良い料理は、楽しかった。

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