ショートストーリー 空芯菜のにんにく炒め

シャキシャキと野菜は音をたてる。
癖もなく、アクもなく、簡単ににんにくの強い香りと味に馴染む。
サッパリとした塩味で、前菜なのにいくらでも手が伸びた。

友達から二度目の離婚と三度目の結婚の報告を受けた。
聞き慣れた報告に私は苦笑いする。
嬉しそうな声ではなく、他人事のように淡々とした声は、呼び出す理由としては充分だった。

私は、行きつけの中華料理屋に彼女を呼んだ。
あの店で待つといえば、分かるほど私達の中では定番。
重たい口を軽やかにさせるビールと軽くつまむための空芯菜のにんにく炒めを注文する。

真っ昼間からのビールだが、そこになんの罪悪感も高揚感もないのが、残念でならない。
だが、空芯菜の咀嚼音はビールを求めるし、友達の重くなるであろう話に、これくらいの刺激がなければ食事もままならなくなってくるというものだ。

喉を潤し、炒め物の油が口に馴染んだところで準備ができた。
私は、彼女をじっと見つめて口を開くのを待った。

彼女は、おめでとうとか祝いの言葉は無いのかと催促してきた。
私が本当に祝いたくなるような気持ちにさせろというと、彼女は肩をすくめて笑った。
予想通り、離婚も結婚も男達からの進言で特に悪いこともないからするという話だった。

私は彼女の無気力な愛にため息をつく。
初めての結婚の時は、まだマシだったと記憶している。
確かに受け身であったが、なんだかんだで嬉しそうな表情をしていた。
学生の頃から愛情に飢えていた彼女に、ようやく落ち着くかと思っていたし。
結婚をしてから変わっていったようにも見えたのに。

子供を授かったと聞いた時、彼女は震えていた。
まともな環境で育たなかった自分は、育てられない。
そう言って絶望していたことを思い出す。
その子供が今どうしているかなんて、私は知らないが、彼女が馴染むべき場所はその子供のいるところだったのではないかと思う。

どこで、何をしている人なのか人物像を聞き流し、彼女に害が無いことだけを確認した。
彼女は、旦那になろうとする男は、仕事が忙しいらしいと愚痴ともとれない不満を零す。
その一言で、次の男の紹介の準備をしなければならないかと、ジョッキを空にした。

空芯菜のようにどこにでも馴染む彼女の心は、いつも空だ。
こ気味いい音を奏でているのが虚しくなるくらいに。
だけど、昼間からビールを片手に話し込めるのは、そんな彼女だからだとも思う。
彼女に昼間のビールが似合わなくなるまで、私はこの店で昼を楽しむとする。

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