おまじないとラスク

カリカリサクサクの食感。
たっぷりの砂糖が振りかけられたキラキラの見た目。
一口目で襲ってくる甘さと香ばしさは、食べる手を止まらなくさせる。

ワンルームのボロアパート。
最小限の明かりだけ灯して、あとは満月の光を頼る。
小さな一口コンロで夕飯の準備。
コンロの横には、目標に書いた半紙。
借金返済と書かれた文字は、キュッ胃を縮める効果がある。

とはいえ、お腹は減っている。
急いでフライパンに、最小限の量の油をひく。
手早く、隙間なく、食パンの耳を並べる。
焼けるのを待つ間に、ビニール袋に砂糖を入れる。

焼けたところからひっくり返しつつ、まだまだ大量に袋に入っている食パンの耳を一つつまみ食いする。
バイト先のパン屋で貰った食パンの耳は、耳であっても柔らかく甘くて美味しい。
食パンの耳だけでも店長のこだわりが見える。

裏も表も綺麗に焼けた食パンの耳から、砂糖の入った袋に入れていく。
そしてまた、油を薄く薄くひき、隙間なく食パンの耳を並べる。

立付けの悪い窓から外の景色を見る。
窓の側には、ボロボロの財布。
何も入っていないのが一目瞭然な財布は、月の光の力を借りるという金運アップのおまじないのためだけに置いている。
薄くてペラペラなのは、見てみぬフリだ。

一心不乱に袋を振りながら、満月が霞むくらい明るい高層マンションを睨む。
私だっていつか。
何度もした決意を今日もする。
そのためには、胡散臭くても月の力でも借りるし、ひもじくても食パンの耳だけでの夕飯でもとる。

食パンの耳をひっくり返しては、袋に入れるのを、何度も繰り返す。
袋に入った砂糖が底をついた頃に、作業を止めた。

財布を脇にどけて、窓の近くで晩餐をする。
満月を見上げれば、勝手に視界に入る高層マンション。
あそこに住む人達は、ビルやマンションの明かりで満月が霞むことはないのだろうかと妄想を膨らます。

空想の世界で夢を膨らまし、サクサクの食パンの耳で腹を膨らます。
そして、財布を膨らませるために満月に向かって一心不乱に財布を振る。
「頼むぞ、お月様! 借金返済!」
眩しい満月に向かって叫び、最後にダメ押しで財布を振る。
ラスクを作る時と同じ要領で振る。
シャカシャカと小銭が掠れる音が、なんとも虚しかった。

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