ショートストーリー そら豆の煮付け

また新人を強く叱りつけてしまった。
叱れば叱るほど、新人の動きは固くなっていく。
殻にこもるように、どんどん壁が分厚くなる。
私との心の距離も遠い。

思わず溜め息が出る。
食事も味気がしない。
食堂の味気ない柄の小鉢に入ったそら豆の煮付けなんて、喉を通る気がしない。

薄皮の付いた豆は通りが悪そうだ。
思わず、仕事が雑だと愚痴がこぼれそうになった。
嫌な気分も飲み込むように、そら豆を一粒口に放り込む。
思ったより柔らかい薄皮。薄皮からツルンと実が出てくると、優しいダシの味付けと濃い豆の風味が合わさる。
風味豊かな豆の美味しさに、無くなっていたはずの食欲が刺激され、あっという間に食事を終えた。

食堂を出ると、今日のイチオシメニューが黒板に記載されていた。
料理長自家栽培のそら豆の煮物。
そう書かれたメニューの下には、滅多に笑顔を見せない食堂の料理長が笑顔で収穫したそら豆と写った写真が飾られていた。
食堂への道は、慣れすぎていてメニュー表なんてイチイチ見ていなかったが、この看板を先に見ていたら、捻くれた私は、そら豆を手にとってはいなかった。
食べてみないと分からないものだ。

青々としてふっくらと、それでいて頑丈そうな殻からあんな美味しい実が採れるなんて、誰が想像しただろうか。
「そら豆が美味しかった」
フロアに戻ると、同期と笑って話している新人がいた。
彼にも、美味しい実の部分が隠れているかもしれない。
私は、そう考えると深呼吸をして新人を呼び出した。
優しい風味に仕上げられるかは私次第。
胸の中で、そら豆の煮付けを思い出しながら、新人がミスした箇所の作業を丁寧に教え直した。

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