ショートストーリー きくらげと卵の炒め物

フワフワの卵とコリコリのきくらげは、正反対な食感なのにしっくりとくる。
食べるうちに卵ときくらげは、なくてはならないような存在なとなっていく。

近所の中華料理屋の頑固親父は昔からの仲だ。
俺が行けば水より先にビールを出すし、顔を出すのに三日と空ければ、オカンのように心配してくる。

コイツが姪っ子を引き取る前からの長い付き合いで、看板娘として働く姪っ子よりも機嫌の良し悪しが分かってしまう。
頑固親父は口を閉ざして厨房に立ち、俺の顔を見るなり、いつも俺が座るカウンター席を顎で示した。

座ったところで、ぺちゃくちゃとお喋りに花を咲かすような親父ではない。
だが、コイツから自らビールを酌されるときは、いつだって何かある時だ。
今日は、頑固な顔がより一層深刻そうな厳つい表情をして、俺のムースーローを炒めている。

悩みがあるくせに、何も喋りやがらない頑固親父に代わって俺はコイツの心中を察しようと努力する。
あまり変わったようすはないが、あげるとするなら、頑固親父がチラチラと移す目線の先だ。
美人に育った頑固親父自慢の姪っ子をいつもよりも気にかけていた。

彼女は店先で舞うように働く、いつも愛想よく笑っていて仕事ぶりに問題はない。
だが、よく見ると彼女もチラチラと目線を移す先がある。
それは、最近見かけるようになったサラリーマンの青年だ。
青年の方も気があるのか、二人は時々視線がぶつかって照れ笑いを浮かべている。
油とオッサンだらけの中華料理屋に春らしいニオイが、やたら爽やかに見えた。

いくら女心に疎い、中華一筋の親父でも姪のこととなると話は別らしい。
親父からムースーローを受け取って
「嫁に行ってもいい年頃だもんな」
と茶化してやった。
頑固親父は、頑固親父らしく予想通りの反応で
「軟弱そうな男にアイツはやれん」
と今度はチャーハンを作る。

いかにもなセリフで、思わず吹き出してしまう。
頑固親父はジロリと睨んできたが、昔からやられている俺はなんの感情も沸かない。
俺はアツアツのムースーローを食べながら
「正反対な性格だから上手く行くこともある」
と説教くさい事を言ってしまう。
黙ってしまった頑固親父に
「美味いムースーローと同じだろ」
と言うとほんの少しだけ眉間の皺が和らいでいて、また笑ってしまったら中華用のお玉が正面から飛んできた。

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