ショートストーリー 明太子バターうどん

明太子のツブツブと辛味、バターのコク、うどんのモチモチ食感。
すべてが上手く混じり合っていた。

昼時を過ぎた店はガランとして、若い活気を待っているようだった。
雇っているパートさん達が帰るのと、入れ違いで贔屓にしている高校生グループが続々と入店する。
僅かに残る天ぷらとご飯物、おでんを好きに取り、次々に会計を済ましゲームに興じるのが彼らの日課。
食べ盛りの彼らが文字通り食い尽くすので、店に余り物が出ないのは嬉しいかぎりだ。

店じまいをする時も賑やかな声をBGMに出来るのは、人好きな私にとってもありがたいことで、手伝いまでしてくれる。
なかなか気のいい少年少女達だ。

彼らがぼやいているのを聞いたことがあるのだが、どこの店でも騒げないらしい。
盛り上がって大きな声を出せば、たちまち針のむしろなのだとか。
私にも同じような経験をした過去があるので、彼らが不憫に思えてならなかった。
昔の私が大人にしてほしかったことを彼らにしてやる。
たったそれだけのことだったが、彼らは恩に感じたようだ。
しょっちゅう従業員の少ないうちの店を手伝ってくれるのも、そういう理由らしい。

アルバイト代は、もちろん渡すが複雑だった。
店を開くことを快く思わない父が、広めまわっているという、家庭事情か含んであるだけ申し訳無さが増す。
どこで事情を知ったのか、彼らも承知の上らしく、従業員募集のチラシを書いてきてくれたこともあった。

手書きのカラフルな募集チラシは目を引くはずだが、従業員は一向に増えない。
店の壁に貼ってあるチラシも、そろそろくたびれてきた。
また頼むのも忍びないので、今度は自分で書くしかなさそうだ。

自分用の遅い昼ご飯の準備をしながら、チラシのデザインを考える。
さらに並行して、新メニューに加えるためのアレンジレシピを試す。
とはいえ、考えなくても出来るほど多様された家庭料理だ。
明太子とバターのコクがクセになる。

アレンジメニューが多いと邪道だと言われそうだが、競合の多い通りでは、そんなことも言ってられない。
とにかく、目新しさで勝負だと腹をくくる。
完成した明太子バターうどんをすする。
細めのうどんでもモチモチとしていて、食べごたえがあった。
きっと彼らも喜ぶだろうと、もうすぐ顔を見せに来る高校生達の笑顔を想像して、笑みが溢れた。

その数時間後、新しいチラシを彼らが即席で作ってくれ、そのやり取りを見た女物の香水の匂いをさせた青年がここで働きたいと申し出てくれることになるなんて、思っても見なかったが。
だが、その出来事は私にとってまたとない幸運であった。
女に捨てられ働き口に困った男は、父の影響も受けない良い掘り出し物であったのだから。

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