ショートストーリー バターアイス

じわじわと舌で溶ける冷たいミルク。
舌で溶かすごとに、バターの香りがふわふわと香る。
香りは強さを増し、甘さとコクも比例してゆく。
風味豊かなわりに、驚くくらい後味はサッパリしていて、どんどんと食べ進めてしまう。
食べている間は、不思議な美味しさに浸っていた。

オレンジ色の灯りを頼りに、家族でテーブルを囲む。
外では、窓を叩きつける雨風。
そのうちガラスが割れるのではないかと、ハラハラするくらいだ。
今夜は予報通りの嵐。

両親も仕事を早めに切り上げて帰宅したし、私も妹と早くから大人しくしていた。
私達は、ゲームをして嵐の音を紛らわし雷の音もやり過ごしていたのだが。
つい五分ほど前から、急にフッと電気が消え暗闇に包み込まれた。

唐突に訪れた闇に、私も妹も母も騒ぎに騒いだ。
だが父だけは冷静に対応し、怖がる私達のためにキャンドルをいくつも灯してくれた。
オレンジ色の灯りは優しく揺らめいて、心を絆してくれた。
ろうそくの中には、アロマキャンドルも混じっていたみたいでフローラルな香りも相まっている。
おかげで、突風がマンションを揺らすのを体で感じても取り乱すことはなかった。

私達家族は、嵐が止むのを大人しく待っていた。
父は、ラジオを持ってきて情報を得ようとニュースを聞き入っている。
どのチャンネルも同じことを言っていて、恐ろしさよりも退屈さのほうが増した。

そんなことを思っていると、母がアッと声をあげる。
何かと思えば、冷凍食品の心配だった。
数時間は大丈夫なはずだが、溶けても食べれば良いと皆で呆れる。
だが、そうはいかないと引っ張り出してきたのは昨日買ったばかりの人気アイスだった。

まるでバターを食べているかのようなアイス。
そのキャッチーなフレーズと口コミで、あっという間に店頭から無くなった幻のアイスの復活。
私達家族も、ご多分に漏れずに興味をそそられ発売直後に購入した。
そのアイスを母は、早く食べなくちゃと私達に急かして問答無用で手渡してきた。

手持ち無沙汰ですることもないので、私はアイスを頰張った。
停電で食べるアイスは、非日常感が溢れていた。
オレンジ色の灯りで食べることも、家族で囲んで食べることも。
噂通り美味しいアイスは、話のネタにはもってこいで、自然とこぼれる美味しいの声に皆笑顔になる。
食べ終わるまで雨も風も気にすることなく、バターの風味をただ味わっていた。
少し口に残るアイスの余韻も私を落ち着かせるのには、充分だった。
そうしているうちにいつの間にか、ラジオで流れる情報も嵐が過ぎ去っていく話に変わっていた。

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