ショートストーリー 海藻サラダ
意外に味がある。
それまでは、ただ海の中で漂うだけの存在だと思っていた。
波打ち際に、べッチョリと投げ捨てられた海藻。
昆布かワカメかはたまた他のなにかか。
磯臭く、砂まみれで、きっと素早く泳ぐカツオにもマグロにも、さぞ嫌われているのだろう。
そう勝手に、嫌われキャラにしたてあげていた。
哀れな海藻を横目にハンカチで額の汗を拭う。
久しぶりの梅雨の晴れ間に嫌気がさした僕は、潮でボロボロになった看板を掲げる定食屋に逃げ込んだ。
ランチを頼むと、飯も味噌汁も刺し身も山盛り。
そしてもちろん、色とりどりの海藻に青じそのドレッシングがかかっているだけのサラダも。
サラダなんて、少しでいいのに。
そう思ったのは最初だけだ。
すぐに、コリコリとした食感や海を凝縮した潮味が癖になった。
外から香る生ぬるい海の匂いとは違う、涼やかな匂いは身体を海に沈めたみたいに冷やしてくれる。
波の音が聞こえるのは、外からか内からか。
波打ち際の曖昧な感覚を覚える。
夢うつつのなか食べ終えた海藻ばかりのサラダを、思わず追加注文した。
食べている間、暑さもどこかに流れていくようだった。
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