百物語 第五十九夜

アマチュアとはいえ、書き手としての倫理観に基づいて私はこれを読んでいる方に伝えなければならないことがある。


きちんとこれから書くことを守らなければ呪われる。
呪われた人間は必ず死ぬと言われているので、その真偽は確かめようがないのではあるが。
この話の呪いは読んだ/聞いた本人だけではなく、あなたの祖父母・親・あなた、あるいは親・あなた・あなたの子供、と三代に及ぶものだ。


・この話を読む前にあたなは一日、少なくとも半日は食事を抜かなければならない。
体内にある便や尿、不浄なものを出来る限り排出するためだ。
もちろん現代科学の前では、糞尿がすっからかんに体からなくなることがないことはわかってはいるが、体から不浄のものを可能な限り出す、出そうとする心構え、それがあたなを呪いから守る。


・この話を読む、あるいは聞く時には玄関の近くに、米と日本酒を備えなければならない。
盛り塩によるお祓いという通説があるが、あれは間違いである。
塩がどうして悪霊や呪いを祓えるのか。
ここ日本では米と日本酒だ。
キリスト教圏ならパンとブドウ酒。
また鬼門とも呼ばれるが部屋の北東の位置に備えるという俗説もあるがこれも大間違いだ。
なぜ玄関という入り口があるにもかかわらず、壁をすり抜けて鬼門を無理やり通ろうとするような野蛮なモノだと思うのだろうか。
呪いと悪霊は人とともにある。


・この話を読む、あるいは聞いている時に息を止めなければならない。
息を止めるということはその場所をある種の神聖な/邪悪な場所と変える。
息を止めることで、あなたの周りを呪い/悪霊の本来の居場所ではない日常の場所であるということを明示する。


・あなたはこの話を誰かに話す、あるいは伝えなければならない。
それをしなければ、あなたがすべての業を一時的に、つまりあなたとあなたの含めた三代にわたる家族を亡くすまで、背負い込まなければならなくなるからだ。


・最後に。
あなたは、私がいま伝えたことを信じなければならない。
いくら私が伝えた呪いをまぬがれる方法を守ったとしても、それを信じていなければしていないのと同じことだ。


ここまでは私の「書き手としての倫理観」に基づいた、これを読んでいる方に対しての忠告である。




そして、「怖い話の書き手の倫理観」に基づいて、ひとつ伝えることがある。

ここまで繰り返し使った「この話」とは、この文章に書かれたそのもののことである。
上の条件をすべて満たした状態でこの記事を読んだ方がいたとすれば、あなたはとても幸運だ。

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