百物語 第四十夜

四年ぶりに会った彼女は、四年のブランクをまるで感じさせることがなく、当時とまるで変わらなかった。
以前勤めていた会社で付き合いがあった彼女とは、山登りという同じ趣味があったことから意気投合し、一番の飲み友達となった。飲み屋には山ほど行ったのにもかかわらず、なぜか結局いまだに一緒に山へと行ったことはないのだが…。

私が転職し地方勤務になってからは、SNSではお互いの様子は確認していたが、なかなか会える機会はなかった。

先日の東京への出張が、彼女との四年ぶりの再会になった。

当時行きつけだった居酒屋で、一杯目のビールをお互いゴクリと飲み干した後、ようやく再会の言葉を交わした。
これは以前からの癖のようなもので、なんとなく一杯目が空くまで、私も彼女ももじもじとしてしまい、ジョッキが空になるのが話し始めるきっかけのようになっていたのだ。


「最近も行ってるの?」
「いや、春先に○○○(山の名前だが、伏せさせてほしい)に行ったのが最後ですねー。最近どんどん仕事増えちゃって」

彼女も四年の間でそこそこに出世をしたらしく、休みが取りにくくなってしまったとのことだった。

「そういえば■■さん(私のことだ。伏せさせてもらう)、まだ好きなんです? 怖い話とかそういうの」
「俺はずっと好きだけど…」
「いいおっさんが怖い話好きとかあんまり人に言わない方がいいですよ!」
「悪口を言いたいのかね?」
「ちがいますちがいます! ○○○に行った時にこわいってか、不思議な話があったんですよ!」


ここからは彼女から聞いた話だ。

○○○は、初心者でも比較的容易に昇れるコースがある。
彼女は彼女の友達たちとそのコースを昇っていた。

登山の初心者の友達もいたことから、休み休み、のんびりと登山していたらしい。

それは下山の途中のことだった。

「あの人たち大丈夫かな?」
そう言ったのは友達のひとりだった。
友達は初老の夫婦のような二人連れが、コースを外れて傾斜を降りていったところを見たらしい。

彼女たちは夫婦が降りていったという斜面を目で追ったが、人影は見当たらない。
とはいえ、冗談を言っているようにその友達は見えない。

気のせいだよ、と言いあいながら山を降り、彼女は旅館へ戻った。

晩ご飯がおわりお酒も多少入ったことで気が大きくなったという彼女は旅館の仲居さんに聞いてみたらしい。○○○で最近事故ってありました?と。


「ちょっとした滑落はあっても、おおごとになっていないのが○○○の自慢でもあるんですよ。ただ私が小学生の頃、だからもう50年前くらいかしら、高校生のアベックが遭難して死んじゃったってことがあったけれど…。だけれど、あの時は心中だって噂がたっていたわねえ…」




「当時高校生のカップルが生きていれば丁度六十代くらいだしさ。だから友達が見たのはそのカップルがずっと登山している霊なのかなって。あんまり怖くないかな?」
「怖くはないけれど、いい話だね」
「■■さんは、幽霊が歳をとったりすると思う?」

怖さばかり気にしていて、そんなことを私は考えたことがなかった。
幽霊が歳をとることについて考えていると、

「■■さんはそういうのどうでも良さそうだもんね」

彼女はそう言った。


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