百物語 第十二夜

西棟校舎、三階の女子トイレ。
その左から数えて3つ目の個室。
夏休み、登校日にすると決めていた約束。

西日の射し込むトイレはこもった空気は息苦しく、だけれどもその不快ささえふたりには楽しみとなっていた。

「あとどれくらい?」
「あと3分で6時だよ!」

西棟の三階の個室に夕方6時に花子さんが出るというふたりの通う小学校に伝わる七不思議。
ありふれた学校の七不思議。
けど、ふたりには特別だった。

いま六年生のふたりは、別の中学校に通うこととなり、ふたりだけの特別な思い出をつくろうと、花子さんの七不思議を確かめようと決めた。

「わくわくするね」
「うん、ドキドキするけど…、なんか楽しい」
「あと何分で6時?」
「あと3分だよ」

ふたりは、ふふふ、と顔を見合わせて笑った。

普段6時に校舎にいることはない。とっくに帰っている時間だ。
それがふたりをわくわくさせた。
西棟校舎のトイレは普段使ったりはしない。
七不思議が足を遠のかせているのもあるけれど、特別教室しかない西棟じたいくることがマレだった。
曰くつきの、そして馴染みのない狭い個室にふたりだけの時間を過ごす。
それもふたりをわくわくさせた。

「あと3分で6時になるよ」
「もう少しだね」
「ほんとに花子さんが出たらどうしよ?」
「ひとりで走って逃げちゃう、かも…」

ふたりは自然と声をひそめて笑った。

村では六年生の女の子がふたり、登校日から行方不明となり、連日山に川にと警察や消防団が捜索を続けている。

ふたりをよく知る人間は、ふたりでひとりのように育ったふたりは中学進学による離別を悲観し、とても悲しい行動をとったに違いないと噂した。

「ねえ、あと…」
「あとたった3分だよ」
「3分!?3分なんて一瞬じゃん。どうしよ…」

ふたりは顔を見やって、微笑みあった。

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