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大好きな喫茶店が教えてくれた、学ぶこと、はたらくこと

先日、一番好きな喫茶店に行ってきた。
昨年末に見つけて以来、人生最高を叩き出したケーキと居心地のよい空間にすっかり夢中になり、月に一度は通うと決めている。

そこはお店を始めて10年(20年の聞きまちがいかもしれない)、一度も値上げせず、ケーキは全種類1ピース350円。店内でいただけるおまかせの盛り合わせセットは飲み物もついて税込1000円。

大人気でテイクアウトも開店すぐや、事前予約で終わってしまうこともしばしば。安さがよいのではなく、味がよいのに値段が安すぎるのだ。生クリームはまちがいなくどのケーキ屋さんよりおいしくて、不思議と胃もたれしない。女将さんいわく「販売にくる人に言われるがまま、一番いいものを使っているからよ」。けれど理由はきっとそれだけではない。

女将さんは本当にやさしくて、お客さんも気さくな方が多く、私はいつもひとりで行くが居心地がよい。いつか誰かを連れて行きたい。ネックは営業日が週2日なこと……。

ちなみにこの盛り合わせ、本当にこれがコーヒーや紅茶もついて1000円ぴったりだなんて信じられない量で、実物はもっと大きく感じる。ランチのワンプレート並の大きさの皿に、スイーツがこれでもかと乗っている。

この日は昼食代わりに少しずついただいていたら、はじめて来たという奥様3人が少し雑談に混ぜてくださって、「お嬢さんはどちらから?」と優しく話しかけてくれた。

女将さんは自分から話しかけにはこないけれど、こちらが声をかければ気さくに応じてくださり、たくさんのことを話してもらえる。

客席前の棚に飾ってあるポーセリンレースドールは、以前教室に通って自作したもの。
私は作り方を知らなかったのだけれど、本物のレースを巻き付けて焼くとレースは燃えてなくなり、その繊細な柄が焼き物になる。すぐ壊れてしまうそうで、絶対に手を触れてはいけない。

お店の素敵な一枚板のテーブルや椅子は、ある木工作家さんに作ってもらったそうで、雑貨も家具も道具も、お店にあるすべてのものに物語や思いがあり、女将さんがすらすらと話して聞かせてくれる。


女将さんの本業は洋裁だそうで、このお店は趣味なのだそう。信じられない、こんな素晴らしいものが……。
とはいえ週2日の営業日で、「端数がめんどうだから」と開店以来ずっと消費税込みで何百円、1000円という値段にしている(つまり毎度値下げしているのだ)し、採れたての果物があればお土産に持たせてくれるし、儲けようという気が一切ないその姿勢に、そうか趣味だからか、と合点がいく。

「お若いから色々習うといいですよ、独学ではどうしても頭打ちになるから、プロから基礎を学ぶのは必要なこと」

女将さんはそう言いながら簡単にここに至るまでの経緯を教えていくれた。

本業が忙しく、ストレス発散にお菓子づくりを始めたこと。作るなら基礎を習いたいと教室に通い始めたこと。習いごとは都内がよい、と都内の製菓教室に移り、そこで人脈を広げて評判の良い教室を知ればまた移動し、たくさんの経験を積んできたこと。
洋菓子の次は和菓子かしら?と和菓子も学び、ここまできたら喫茶店についても学んでみようかと……。そうしていろんなことを吸収して腕を磨き、趣味の喫茶店を始めたこと。

本業がある中で、趣味だからとここまで行動できる人はなかなかいない。

たくさんの経験を活かし、ご家族の結婚式の花束のアレンジも、繊細なシュガークラフトのウエディングケーキも、花嫁のドレスも自作されたそう。
アルバムをめくりながらなんてことのないように話す女将さんの姿に、私は今まで大事なことをすっかり見落としていたのだな、と感じていた。


私はつねに焦りや不安を抱いている。
自分が選んだ道なのに、専業主婦であること、「お金が、儲けがすべてじゃない」と思いつつも今の自分の仕事のしかたに不安があること、夫や周囲に甘えてばかりいること、そうやって思うのに、大きな行動に移していないこと……。

けれど、穏やかでパワフルな女将さんを見て、不安や焦りが凪いでいく。
女将さんはまちがいなくパワフルな人だけれど、メラメラと燃え盛るのではなく、目の前のことを一歩一歩、意気込みすぎずにしっかりと歩んでこられたのだと思う。

理由はなんでもいいのだ。何かを始めるとき、大きな意気込みがなくても大丈夫。
それが仕事になろうがならまいが、まずはやってみる。今の暮らしが脅かされることのない限り、それぞれの事情で、自分のペースで、やれることやりたいことをすればいい。

学びたいなら学ぶ。すぐ目の前の儲けを気にしなくてもいい環境に身を置かせてもらっているなら、できることがいっぱいある。私と夫で決めた、家庭を何より第一に守る、という約束を守りながらでも。


ここ数年描いていた夢がある。
「子どもが自立して、落ち着いたときにできたらいいなあ」と夫に話していた夢物語。
そのための種まきが、調べてみると案外かんたんにできそうだった。今までは調べるという発想もなかったけれど、スマホひとつでたいていのことがわかるこのご時世、私はなんで思いつきもしなかったのだろう。

その夢のために今年、したいことがある。
喫茶店に、女将さんに出会ったこと、ここ最近の本づくりで出会った人びとのおかげで輪郭が見えてきた。

私なりの学び、はたらきをし、今年は種まきをめいっぱいがんばります。

余談だが、私の好きなお店あるあるの「ご近所さんの雑貨が売っている」がこの喫茶店にもあって、雑貨をふたつ購入した。

この趣ある木の飾りは150円、カービィカフェで手に入れた陶器のワドルディの台にした黒板消しは、なんと30円である。
あまりのお手頃価格に目を疑った。桁がひとつ足りないのでは……?

そんな大好きな喫茶店に、また来月も行ってきます。

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