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season1-21 風神雷神

【前回までのあらすじ】

英語が喋れるようになりたくて米兵ご用達のストリップクラブでバーテンのバイトを始めた小橋。

数多いダンサーの中で、同い年のダンサーであるリディアに恋をしかけた小橋だったが、リディアは乳輪に太陽のタトゥーを入れてきた。そのタトゥーを見た小橋の恋は終わった。

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前回、好きになりかけていたダンサーのリディアが乳輪に太陽のタトゥーを入れてきた話をした。それを見て恋から覚めたが、リディアの太陽のような笑顔にあった素晴らしいタトゥーだったと思う。ただ恋人にはしたくなくなったというだけだ。

僕が働いていたストリップクラブでは当たり前のようにタトゥーが入っている人が多い。アメリカ人の従業員なんかは昔所属していた部隊のタトゥーを入れていたりするし、スポーツバーのバーテンのお兄さんなんかは全身タトゥーまみれだった。

僕も実はタトゥーに憧れがあったりする。小さいタトゥーとかではなく、肩から肘にかけてがっつりと入れるタトゥーに憧れている。ただ日本ではタトゥーを入れるといろいろと弊害があるし、そもそも顔的に絶対にタトゥーは似合わない。僕みたいな人間がタトゥーを入れてしまうと、一生高校デビューした奴を見るような目で見られるだろう。だから入れない。

お店ではタトゥーが入っていない人の方が少ないぐらいだった。ていうか、マジで僕と店長ぐらいだった。

そんなメンバーで飲み会に行くと、やっぱり周りからビビられる。少人数で飲みに行くこともあったが、年に数回ダンサー以外のバーテンからセキュリティまで含めた従業員全員が参加する飲み会があった。実は系列店がもう一店舗あるので、総勢30人程いる。

ある日、店の営業が終わりその大飲み会が開催された。朝9時まで空いている居酒屋で、深夜2時から飲み会はスタートした。

もちろんそういうお店は僕らのような飲食業の店員が朝まで飲めるようにその時間まで営業している。深夜にもかかわらずお客さんは多い。ほとんどが、スナックの店員かボーイ達。日本人だ。そんな中に半数以上が外国人のタトゥー集団が来たらそりゃ好奇の目で見られる。でもビビってるからじろじろは見てこない。ちらちらだ。先頭を歩いているオーナーがガン飛ばしてるし。

完全なる余談だが、沖縄ではキャバクラの事をスナックと呼ぶ。だから僕もスナックの店員かボーイと言った。スナックといっても中に入ったらただのキャバクラだ。

その日も店の二階のほとんどを僕たちが使っていた状態だった。ふすまで隔てられたもう一つの個室に6人ぐらいのお客さんがいるだけだった。その人達からしたら集団で飲んでいる僕たちのせいであまり楽しく飲めなかっただろう。だから事件が起こった。

僕らは僕らで楽しく飲んでいると、向こうの集団がもたれてしまったのかふさまがこちら側に倒れてきた。その倒れてきたふすまが、まさかのオーナーにあたってしまった。

まずい、まずすぎる。オーナーはだれかれかまわずにキレる事が出来る人間だ。お客さんと喧嘩になって出禁にしたことも何回もある。だが相手は一般人だ。喧嘩になるわけにはいかない。従業員全員がピりついた。

しかしオーナーは軽くあしらった。相手側に軽く右手をあげて返事して終わった。助かった。オーナーも50歳を過ぎてやっと大人になったんだ。

だが僕はもう一つの事態に気が付いてしまった。相手側の集団の中の一人に、中学の頃の同級生がいた。

最悪だ。何が最悪かって、そいつがいたということは、わざとふすまを倒してきたんだ。

その同級生は怖い物しらず。中学の時からヤンキーで、年上とか関係なく喧嘩を売るようなやつだった。しかもちらっと見えたその集団は、全員和彫りの入れ墨が入っていた。多分怖い組織の人達だ。同級生はヤンキーのまま成長し、怖い組織に属するまでになってしまったのだ。多分、ふすまを倒してきたのは間違いじゃない。喧嘩を売ってきたのだ。このタトゥーの外国人集団を見てもびびってないんだ。和彫りの連中からすると、タトゥーは恐怖の対象ではない。これはまずいことになった。

案の定、もう一度ふすまが倒れてきた。そしてオーナーにあたった。

オーナーは


ブチ切れた。

もっていたジッポを相手側に投げつけた。そして殴り掛かろうとする。それを必死に止める従業員たち。セキュリティに止められて一歩も動けないオーナー。相手を見るとにやにやしている。

その時、一人の女性が立ち上がった。ウエイトレスのゆうこさんだ。

ゆうこさんは相手に近づくとこう言った。

「あんたたち、ごめんなさいね。ちょっとうるさかったよね。でも喧嘩売るのはやめなさい。あんたたちじゃ絶対に勝てない集団だから。」

ゆうこさん、まずいよ。火に油だよ。相手は絶対女性のいう事なんか聞かない。ゆうこさんが出る幕じゃないよ。僕はそう思った。だが、その後の展開は僕の思惑とは違った。

「は、はい・・・すみませんでした・・・」

相手はそう言って僕たちに謝ると、店を出て行った。そうか、タトゥーにびびらないでゆうこさんにビビったのはそういうことか。

これはマジで信じてほしいんだが、ゆうこさんは、右太ももに風神、左太ももに雷神の和彫りの入れ墨が入っている人だった。

その日のゆうこさんはホットパンツをはいていた。風神雷神があらわだ。

恐らく、それを見た相手側は、ゆうこさんをその筋の姉御と勘違いしたんだろう。

風神雷神の威力は凄まじいな。神の力は絶大だ。

※この話はノンフィクションです。登場人物の名は仮名です。

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