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00. 旅がはじまる 【 旅の記憶 】

車旅がはじまる少し前のこと。
春と呼ぶにはまだ寒い3月、私は仕事をやめた。

就活はせず、自分のやりたいことを自由にゆるりとやりながら暮らすことを選んだ。その手始めでもないけれど、仕事をやめたら4、5月あたりから車旅をしようかと夫と話していた。

私は岩手に家があり、夫は広島が本拠地。夫は広島と岩手の二拠点を軸に、人を訪ね各地を歩き回っているが、私は勤め人で気軽に行き来できる距離ではなかった。最後に広島に行ったのは3年ほど前。義両親に孫の顔を見せにいくという目的を果たしつつ、道中は夫と交流のある各地の人々を訪ねようという算段。

過去3回、岩手ー広島間で車旅をしてきたけれど、一番長い旅になりそうなことは確か。会いたい人たちが各地にいて、そして期間に制約がない分、ゆるりと動いていくつもりだから。

この車旅のマイテーマは、思い込みを手放し、視野をひろげ、この先の暮らし方や生き方を定めること。

さて、どんな旅になるのだろう。希望と不安との間で行ったり来たり。
でも、怖くたって一歩二歩と歩き出せば物事はするすると動いていくもの。

仕事をやめて力を入れ始めたのが菓子作り。菓子作り自体は2年ほど前から。続くと思っていなかったけれど、なんだかんだ週末菓子作りを継続してきた。趣味だとかハマってるとかそういう類の言葉は何だかしっくりこない。何というか、どうやったらいつも美味しく作れるのか実験や検証を繰り返している感じ。

そんな実験を繰り返す(菓子を作り続ける)なかで、秘めた想いがむくむくと育つ。それは、自身の店を持ち菓子を売ること。でも、素人だし、自己流だし、自分の作っているものが本当に美味しいものなのか、売るに値するものなのかわからない。どうやったら出店できるのかもわからないし、そういう類のネットワークもない。わからないことだらけ。だから、「禁断の夢」「踏み入れてはいけない道」のように思っていた。

それでも、美味しいと喜んでくれる人たちがいて、お店できるよと背中を押してくれる人たちがいて、禁断としていた道は私も歩いていい道なんだと歩き始めようとしていた。

車旅中、菓子作りはできないだろうと思っていたけれど、夫は道具と材料を持っていけばいいじゃんとサラリと言う。まじか。そりゃ確かにそうだけど、荷物大変なことになるし、オーブン使えるかわからないし•••。夫から「望みはなに?」と問われて頭に浮かんだのは、旅先で出会った人たちに向けて菓子を作る自分。

うん、何だかワクワクしてきた。どうなるかわからんけど、とりあえずやってみよう。小さなことにぐずぐず悩む私だけれど、案外単純な奴でもある。

そうして出発を目前にし、急ピッチで旅支度が始まった。

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