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01. 変わりゆく町、時が止まった町 【 旅の記憶 】 5/17

出発当日の朝。何だか気持ちが晴れない。

冒険の物語だったらきっと颯爽と出発するんだろうけど、実際は旅立ちの前にやることがたくさんある。

冷蔵庫のお掃除(料理)、ゴミ捨て、片付け、掃除、荷造り、積み込み、etc...

色々とやることはあるんだけど、何だかテキパキと動くことができない(いつも以上に)。何だか引っ掛かりがある感じ。だけど時間もないので知らぬふり。

そんな心の状態を無視すると、途端に負の連鎖がはじまる。やることなすこと上手くいかず、終いにはふてくされモード。時間がないというのに、どんどん時間を浪費していく私。

そんな心の片隅で、いっそのことやめてしまいたいという気持ちが見え隠れしている。たぶん、なんの後ろ盾も保証もない未知数の旅にびびってるんだろうな。うん、気持ちはわかる。夫からの最終通告「行かないなら行かないと決めてくれ」と言われ、ようやっと重い腰をあげて動き始めた。

ここで「もういい、やっぱやめる!」と宣言することもできたし、喉元まででかかったけれど、これを言ったら何か大事なものを失ってしまう気がして、ぎりぎりとどまった。

予定した出発時刻から大幅に遅れたけれど、無事出発。

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盛岡市を出発し、大船渡市からひたすら沿岸を南下し、福島のいわき市を目指す。

久々に通る沿岸部の町を眺めながら車は進む。

以前住んだ町は被災の跡が少なくなり、立派な道ができ、立派な防波堤が連なり、その先に海があるとは思えない景色。

小洒落た現代的な施設も完成している。そこをめがけて市外、県外からと人々が訪れてきているのだろうか。新しい施設と町は融合できているのかな。変わっていく町並みの中で、町に住む人々の心や暮らしは豊かになったかな。復興って何なんだろう。豊かさ、幸せとは何だろう。そんなことを夫と話していた。

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福島県に入り、国道6号線を進むと避難指示区域に入る。

全てが当時のまま、ゴーストタウンと化した町。緑に侵食される家や店、車が置かれたままのガソリンスタンド。夕方、日が落ちる頃だったこともあってか、灯りの灯らぬ店や家々に違和感と不気味さを感じた。

私は今日初めてこの道を通っただけ。そこに住んでいた人たちの思いは測りかねる。けれども、他の町とはまた違う重苦しさを感じたことは確か。

避難指示区域を抜け、人が歩いている姿を見て何だかほっとした。山や海に人がいなくても違和感はないけれど、人々が作ってきた場所に人がいないのは何か違うらしい。それだけじゃなくて、あの場に残る人々の残留思念なるものが行き場をなくして蠢いていたのかもしれない。

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いわき市に入り、さらに1時間ほど経過(広いぞいわき市)。今日から数日お世話になるお家に辿り着く。夫の友人宅で私と息子は初めましてでちょっと緊張の面持ち。息子が馴染めるか心配だったけれど、一つ上の優しいお兄ちゃんがいい感じに自然に迎え入れてくれて、早速楽しそうに遊びはじめた。

色々と話していると、夜もいよいよ更けてきた。

それではまた。

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