ロボがジャージにガスマスク

それは突然の報せだった。仕事の休憩中に何気なくスマホを見ていた。特に目的もなく何気なく。時間を潰すためにフラッと本屋に寄るみたいな感覚で。そこに並んでいるのは、名前も聞いたことのないYouTuberが結婚!だの、何やら難しそうな政治について書かれているものといった興味のない本ばかり。まぁこの世に本なんかごまんとあるのだから自分が興味のある本に出会うことの方が難しい。仕方のないことだ。

と、思っていた僕の目に飛びこんできた「鳥山明、死亡」の文字。文字は読めているのにそれがどういった内容なのか理解できない。「悲しい」とか「信じられない」といった感情が追いついたのはしばらくしての事だった。

僕は有名人でも愛知県に住んでいるわけでもないので当然彼に会った事はない。でも、彼の作る世界には何度も遊びに行った事がある。そのステキな世界でたまに自分自身の話もしてくれていたから他人なのにどこか他人じゃないような気もする。

彼の世界に初めて遊びに行ったのは小学1年生の頃だ。僕たちの街にあるゲームセンターにある日"ドラゴンボールデータカードダス"というゲームが現れた。その頃の僕はドラゴンボールを全く知らなかったけれど僕は機械に100円を入れた。出てきたカードにはグレートサイヤマンと名乗るヒーローのようなキャラのイラスト。何やらよく分からなかったけれど画面の中のヒーローはフリーザと呼ばれる宇宙人と戦っていた。手からビームが出てかっこよかった。

それをきっかけに僕はドラゴンボールを見始めた。フリーザの強さにも絶望したし、西の都に現れた人造人間も怖かったし、元気玉を作る悟空をベジータと一緒に応援した。頭が空っぽだった当時の僕でも目一杯楽しめた。空っぽだったから夢を詰め込めた。ちなみにグレートサイヤマンの正体が分かった時にはビーデルと同じように驚いた。

©️バードスタジオ/集英社

あれからずいぶん時間は経ったけど僕は鳥山明の作る世界に魅了されたまま。ドラゴンボールもドラゴンボール以外の作品もいまだに読む。これからもきっと何回も読み返すと思う。

SANDLANDも映画になったし僕が好きなピッコロはさらに強くなった。これからも彼の作る世界は広がっていくしその度に遊びに行くんだろうなと思っていた。

この数日の間に「国葬をするべきだ!」とか「国民栄誉賞を送るべきだ!」といった意見を見た。気持ちはわからなくもないけれど個人的には反対だ。彼は"日本のヒーロー"ではなく"少年たちのヒーロー"なのだから。それに彼はとても恥ずかしがり屋だから国葬なんかしてしまうと安らかに眠れないんじゃないかと思う。ねむれないのは超戦士だけで十分だ。

ミスターサタンを応援するように「鳥山明」の名前を世界中の人が呼んでいる。僕たちもドラゴンボールの世界の住人なのだ。

©️バードスタジオ/集英社

きっと向こうには大きな水晶に乗ったお金が好きで怪しげなおばあさんがいるはずだ。いつかその人に頼んで1日だけこっちに帰ってきて欲しい。そしてまた漫画を描いて僕たちをワクワクさせて欲しい。....いや、やっぱり目一杯楽しんでほしい。今まで僕たちのためにいっぱい描いてくれたのだから。

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