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たった一言が言えなくて

家にこもる生活が数日つづき、友達との会話も文字を通してでしか行わない日々。最近どういう感じで友達と対面で会話をしていたかを忘れそうになる。

そんなときにオンラインで友達と会うことが出来る技術に感動する。そして、こんな時にしかそう感じられないほどに科学技術は私達の生活に根付いているものなんだなと思う。
 

私もこの間、オンラインで友達数人と集まって話をした。私はそうではないのだけれども友達はアルコールに弱い人が多い。だから、流行っているオンライン飲み会にはならずただのオンライン会話になる。そのときは、スマホの話しながら進めるゲームをみんなでダウンロードして遊んだ。久しぶりに声を出して笑い、どんよりと重たくなっていた心がなんとなく軽くなる感じがした。

楽しい時間はあっという間に過ぎる。気づけば23時を回っていた。遊んでいた一人の女の子が「もう23時か」と言った。周りのみんなはその一言を聞こえているのか聞こえていないのか、スルーして会話を続けていた。


 
ある飲み会でのこと、その飲み会は私が大学祭実行委員会という団体に入ってすぐに行われたものだった。その団体には普通、大学三年生から入るらしい。私はわけあって大学四年生から入った。他の人よりもその団体に入るのが遅かったのでまだその団体には馴染めていない状態での飲み会だった。もう卒業したメンバーも参加していて、どうやらその団体の近況や卒業生の近況を報告し合う飲み会らしい。

私もがんばって早く仲良くなれるようにと積極的に話しかけたり、その人らの思い出話も笑顔をつくって聞いたりしていた。それでも、すでにできあがったコミュニティに入るほど難しいものはない、と感じるほどに私を置いてけぼりにしてどんどん話が盛り上がっていく。

たいして盛り上がれない私は頭の中で家に帰ってからの予定を考えていた。電車で最寄り駅まで帰って、追いつけない速さで進む話に追いつこうと努力したご褒美にコンビニで何かあまいものでも買おうかな…、あれっ、そういえば明日までにやらないといけないものあったな、と思い出した。そしてスマホで時間を確認して「もう22時か」と言った。そのときも、聞こえているのか聞こえていないのかはわからないけどもみんな会話を続けていた。
 
私は誰かに気づいてほしかった。「もう帰る時間?」って聞いてほしかった、私は人の会話を遮るのが苦手だから。その楽しんでいる空気を断ち切りたくなかった。だから、「もう帰ります」の一言が言えない。言えないまま気づけば私は終電に乗っていた。


 
オンライン会話でも「もう帰る時間?」という一言を求めている人がいる。ただ、飲み会の時と違うのはそれを求めているのが私じゃ無くて友達で、私だけが彼女の一言に気づいているということだけは違った。

でも、たった一言がいえない。友達のために言うたった一言が私には言えなかった。言えないでいると、彼女が「明日、仕事だから寝るわ」と言いオンライン会話は終わった。

私はつくづく弱い人間だなと思う。楽しく会話しているのを遮りたくない、話している人の気持ちをないがしろにしたくない、という正当そうないいわけをこじつけて、楽しい会話を終わらせた犯人になりたくなかっただけだから。それに比べて彼女は強い。自分を大切にし、会話を終わらせた張本人になれる。
 
でも、誰も会話を終わらせたことに不満な顔はしない。みんな、彼女の一言を尊重できる友達ばかり。会話を終わらせたら重罪みたいに思っていたのは私だけだったのかもしれない。
 
やっぱり、私は弱い人間。
 
きっと弱いからこそちょっとずつ強くなっていけばいいんだよ。次は私も自分を大切にして会話を遮ることができるはず。だって、彼女のおかげでちゃんと強くなれたはずだから。いつまでもその成長を楽しめる弱い人間でありたい。

2020.04.14

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