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守るためのうそは嘘じゃないと信じさせて

大学の研究室と書かれた部屋に入るとそこには、私を含め5人の学生がいた。その日はゼミメンバーの顔合わせの日だった。全員話したことはないが、同じ学科で3年も共に過ごすと顔を知っているくらいには存在を認識できた。それほどまでに理系の人間関係は狭い。

5人の内2人は女の子で一人はおとなしい女の子、もう一人はフットサルサークルで代表をつとめ、大学を楽しんでいる女の子。まさに女子大生というブランドを身につけて歩いているような女の子だった。自己紹介も早々に終えると、女子大生を身につけた彼女が突然私に向かって「彼女いるの?」と聞いてきた。心臓の鼓動が速くなるのを感じた。それは、この質問が大嫌いだから。この質問の答えをいつもためらってしまう。そんなことは悟られないように「今はいない」と答えた。すると「じゃあ、いつまでいたの?」と聞いてくる。もうやめてくれ、今までにいたらどれだけ楽にこの質問に答えられただろうか。私がどれだけ彼女という存在を願って、どれだけ片思いという言葉に苦しめられてきたと思っているんだ。そもそも、彼女はなんで私の恋愛事情を知りたいんだ。彼女に対する怒りにも似た感情と疑問を抱きながら「半年くらい前かな」と答える。
 

私は今までに彼女がいなかったことを知られるのがとても怖い。今までに恋人がいないということは何か問題があるんじゃ無いか、そう思われそうだから。少なくとも私の周りには今はいなくても今までに恋人がいた人ばかりだから。その疑いの目を向けられるのが怖いのだ。


 
卒業論文を書き終え、周りの同級生は海外旅行を恋人や私よりも仲の良い友達と楽しんでいる。それをインスタで眺めながら私も何かしたいと思い、なぜかテーマパークのアルバイトを始めた。

初めのトレーニングは会社の会議室で行われた。そこには8つくらいの机で作られた島があった。来た人から各島に割り振られる。その島ごとでトレーニングをするらしい。私の島には私を含め4人いて私以外は全員女の子だった。自己紹介を終えるとその内の2人は韓国アイドルの話で盛り上がっていた。私ともう一人は全然知らなかったのでその様子をただ眺めていた。ひとしきりその話が終わると、話題を探すようにみんなが周りを見渡し始めた。私と韓国アイドルの話をしていた片方の女の子の目が合うと「ねえ、ねえ、彼女いるんですか」と尋ねてきた。出た、またこの質問か、と心の中でため息を漏らした。

「今はいないよ」

また今はという言葉をそえて濁してしまう。彼女は「ふーん」と言い、その後を聞かなかった。また沈黙が続く。それに耐えかねて今度は私から彼女に「彼氏いるの」と聞く。考える間も開けず

「いませんよ、今までもいたことないですし」

「こんなアイドルオタク誰が好きになるんですか」

と笑いながら言われた。えっ、と戸惑った。彼女はどう頑張っても私が言えなかったことをいとも簡単に言ってしまうのだ。そんなのはおかしい。彼女は普通じゃないと思われてもいいと思っているんだろうか。きっとまだ高校生だから、私と同じ大学4年生じゃないから言えるんだ。なぜか私は必死にいいわけを求めていた。そして、なぜか理由をつけて肯定したかった。この素直に恋人がいない、と言えない自分を。そうでもしないと自分が素直じゃないみたいだから。自分を守る為のうそだと信じ込めないから。
 
私は本当に卑怯な人間。
 
相手を否定して自分を肯定することでしか安心できない卑怯な人間。

こんな弱い自分が大嫌いだ。だから、強くなれるようにもっともっと努力していきたい。そうしたら少しは好きになれる気がするから。恋人がいなくても私には十分価値があるよって優しく心を抱きしめてあげられる気がするから。

2020.04.07

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