悪意が溢れる世の中だから
どこに行っても恋というものは存在する。私のアルバイト先もそう。私の後輩にあたる、フリーターの男の子が先輩の女の子に恋している。そんな構図、どこかのドラマでも見たような構図。そして、どこに行っても恋というものは無慈悲だ。
後輩の男の子は先輩のことを好きでも、先輩は後輩のことを好きではない、いや、むしろ嫌っている。先輩は彼が仕事をうまくこなせないから嫌っている。
人を好きになるときって理由が無いけども人を嫌いになるときにはたいてい理由がある。だからつらい。
*
いつもと変わらずアルバイトに出勤すると、その日は私とその先輩、社員2人というシフト。珍しく客足が少なかったので、暇をもてあましていると、彼女が何かを思い出したようにぱっと顔を上げ社員さんに向かって、「あの日のシフト変えてくれませんか」と言った。続けて「あの人と一緒のシフト、疲れるから嫌なんですよ」と冗談っぽく言い、後輩の男の子の名前を出した。
社員さんは「そうだよね」と頭を数回縦に振る。それを合図にしてその場が笑いに包まれる。私は笑ってごまかした。
彼女の言葉に、同意するのも嫌だったし、彼女を否定するのも嫌だったから。その言葉をここで言うわけがきっと彼女にもあるはずだし、だからといって、後輩をないがしろにして笑いを取るのはどうなんだろうかと思ったりする。
その場でとっさに答えが出せず、とりあえず笑ってごまかすしか出来なかった。この不意にぽんっと出た悪意への接し方がわからない。その場にいる人の悪口でもないし、言っている本人も本音で彼が嫌だから発している。果たしてこれが悪意と呼べるものなのかもわからない。わからないまま、跳ね返すことも出来ず、いったん受け取ってしまう。そして後からこのことを思い出して心が疲れる。
たぶん、対処がわからないって両者の悪い所を見てしまうからなんだと思う。彼が仕事出来ないと思っているから彼女の言葉を否定できない、彼女が彼の気持ちを考えない人と思っているから後輩に同情する。
けれども、ちゃんとそれぞれに良いところがある。
仕事を覚えるのが苦手で嫌がられる彼はすごく素直。仕事は出来なくても自分の間違いをすぐに認めることができるし、すぐに謝ることもできる。それで、怒られるとわかっていても社員さんや私達アルバイトに迷惑がかかることを避けるためにわからないことはちゃんと聞いてくれる。とても素直な男の子。
本人のいないところで後輩を嫌がる彼女も周りをすごくよく見れる。私がどうすればいいのかわからず困っているとそれを察して声をかけてくれるし、こうすればもっと効率的に業務をこなすことができるんじゃないかと考えることができる。とても気配りができる女の子。
そうやってその人の良いところを見つけると、両者を否定していた悪意が小さくなる。悪意ってそうやって対処するんだろう。
みんな必ずいいところがある、そこを愛してあげたい。いつか、私のいいところも見つけて愛してくれる人に出会いたいな。
2020.04.18
よろしければサポートお願いします! いただいたサポートは執筆に必要なコーヒーに使います!