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あそどっぐインタビュー4日目 その3 「『あまねさんの握手は・・・アツいよね』」

2015年、私ははじめてあそどっぐのコントを見た。
「この人に会わねば」と思い、ライブを見に広島県・福山へ向かった。
ライブの後、意を決して話しかけた。
その時の話。

あかほし(以下「ほし」): もし演劇であれば、台本や演出であらかじめ決めておいたことを舞台で忠実に再現していくのかな? けど、お笑いの場合はお客さんとのキャッチボールになるから・・・
あそどっぐ(以下「あそ」): そうそう、うん。そうなんだわ。だからむずかしいよね。そこらへんが掴めるようになるには・・・・やっぱし、なかなかね。
ほし: ねえ。生のお笑いは独特の緊張感があったので印象に残ってます。とてもスリルがある。
あそ: そうねえ。
ほし: TVを見てる時とはまったく違いますよね。生のライブ会場だと「笑うか笑わないか」って判断をすごい真剣にやるんですよね、こっちも。
あそ: うん、そうね。うかつに笑わないよね、お客さんもね。居るわそういう人。うん、やりにくい客だわそれ(笑)
ほし: 行っちゃったよやりにくい客なのに、あそさんのライブ(笑)
あそ: うんホントに(笑)
ほし: 舞台上にいる芸人さんの「今ヤバい!」とかいう心の声も、かなり生々しく聞こえてきますよね、生のお笑いは。
あそ: あ〜そうだよねやっぱね。焦るとね、すぐバレるんよね。焦ったり緊張したりするとね・・・そうするとまた、お客さんも笑えなくなるしね。
ほし: そうですよね。芸人さんとお客の関係性が一本調子じゃなくって、弾力性がある。だからスベるもウケるもそこの呼吸次第という気がしました。おもしろい世界だったなあ。
あそ: うんうん、やっぱライブはいいよね。TVとはまた違った楽しさがあるわ。
ほし: あ、じゃ福岡のお笑いライブは、バリバラ出演した後から(編注:あそどっぐは福岡のあんみつ姫でライブ出演している)?
あそ: うん。バリバラ出演して、その後またさらに2年ぐらいくすぶってたんかなあ・・・。だからバリバラ後だね、福岡のライブに出演しはじめたのは。
ほし: タイミングでいうと、〈障害(仮)〉展はどのあたりになるんでしょう?(注1:文末参照)
あそ: あの時は、もう大分出演してたんじゃないかなあ。うん、たぶん。
(あそ: 脚のばして。※ ヘルパーさんに声をかけて体勢を変えている)
あそ: いろいろ出演しだして、そのちょっとあと・・・ぐらいじゃないかなあ。でも全然仕事はない頃だよね。だからビックリしたよね。「美術館からきたぜ」みたいな(笑)
ほし: ビックリしますよね(笑)他の出展者に誰がいるのかって話は事前に聞いていたんですか?(編注:現代美術家の会田誠や、チンパンジーのアイちゃんなども一緒に出展していた)
あそ: え〜っとねえ、いや、聞いてなかった。
ほし: へえ〜。
あそ: 聞いてなかったと思う、たぶん。
ほし: え、じゃあ「こういう趣旨の展覧会をやりたいので出して下さい」みたいなオファーが櫛野さん(注2)からきた?
あそ: そうだね・・・いっちゃん最初のコンタクトはなんだったっけなあ。「鞆の津ミュージアム」からのメールだったかなあ。それを櫛野さんが書いたかどうかは分からないけど。その後、実際に櫛野さんが熊本まで会いに来て。で、「こういうのをやりたいから作ってもらえないですか?」っていう話をして・・・だね。
ほし: じゃあ、〈障害(仮)〉に出展していたコントは全部描き下ろしってことですか?
あそ: うん、そうだねえ。ぜんぶ書き下ろし。あ、あの〜「ヒッチハイク」だけ、前からあったやつかな。
ほし: そうなんだ。
あそ:「ヒッチハイク」だけニコ動で評判がよかったやつ。あとは書き下ろしだね。
ほし: その時は、ネタの修正依頼あったんですか?
あそ: え〜っとね、一応ね、あの〜、あんま自分の作品に、どの作品にも自信がない方なのよ、ぼく。すごいね、人の評価が気になるから・・・一応ネタ1回提出して向こうがなにも言ってこないから「もし直すところがあったら直したいから何か言ってくれ」って、こっちからお願いしたりするよ。
ほし: そうか。ネタキリギリスがねえ、いい意味で強烈な違和感として残ってるんですよ、私のなかに(注3)。
あそ: あ〜なるほどね。
ほし: だから、あそさんのことをぽわ〜んって思い出す時って、ネタキリギリスが30%ぐらい占めるんです。
あそ: あ、デカい(笑)まああれはインパクトあるもんなあ、たしかにね。
ほし: なかなか言語化しにくいんですけど、なんつったらいいんだろうな。「俺のことをどういう風にみるんだ?」って挑発しているような。
あそ: ああ、それはあるかもしんないね。
ほし: その挑発の生々しさみたいなものがめちゃくちゃ印象に残って・・・だから、〈障害(仮)〉の会場で4,5回ほど見たんです、あそさんのネタを。で、見るたびネタキリギリスが癖になってくる。
あそ: (笑)慣れてくればね。うん、最初はね、見てビックリで、たぶん何言ってるかとかもぜんぜん頭に入ってこない状態から、入っていくんやないかなって思いながらつくってた。
ほし: あ、いや、けっこう聞こえてましたよ。
あそ: あ、スッと聞こえてた?
ほし: うんうん、わかったわかった。
あそ: ああよかったよかった。
ほし: 大体・・・聞こえてたんじゃないかなあ。で、そのネタキリギリスを見たときの違和感みたいなものは、見るたび大きくなっていくんですよね。ド下ネタだけど、あそさんの精神性が伝わってくる、スルメタイプの味わい深いネタ・・・と私は思っています。
あそ: あ〜なるほどねえ。
ほし: 最初は「ネタキリギリス」のキャラや下ネタに注意がいってたんですが、だんだん「どんな気持ちでこのコントを書いて、どんな気持ちで演じているんだこの人は??」とか、「それを見る私の心は今とてもチリチリしている。でありながら、痛快だ。それはなぜ??」・・・と、それが今も尾を引いたままインタビューをしている。
あそ: (笑)なるほどねえ、うん。

〜〜〜

ほし:私は日頃、「 お互い死んじゃうかも知れないんだから、会いたい人には会っとこう」とよく思うのだけど・・・
あそ: うんうん、何があるか分からないもんね。
ほし: あそさんのことをはじめて知ったとき、あそさんがどれくらいハードな病気なのかとか、全く分からなかったから・・・最悪のパターンで考えておいた方がいいなと思ったんですよね。
あそ: うん、まあね。
ほし: だから「とにかく早くこの人に会いに行かなければ」って思って。普段わたしは照れ屋だから、はじめましての人にいきなり思いの丈ををバーッとしゃべるなんてことはしないんです。が、あのとき(編注:福山のライブのとき)は「もしかするとこれがラストチャンスかも」という思いがあったから、あれだけ素直に話せたんです。
あそ: ああ、うん、よかった。
ほし: そうなんですよ。
あそ: だよねえ、やっぱ会った方がいいよなあ。うん。よかった。それがなかったらね、今こうやって話せてないしね。
ほし: そうそうそうそう。ビックリした、あの時のパッションみたいなものがあそさんに伝わってたっていうのが(注4)。
あそ: (笑)
ほし: (笑)「あ、伝わるんや」と思って。一緒に「キキキ」(編注:あそどっぐとあかほしがランチに行ったお店)行った時お酒飲んだじゃないですか。
あそ: あ、うんうんうん。
ほし: で、ほろ酔いのあそさんが「あまねさんの握手は・・・アツいよね」って言い出して(笑)
あそ: (笑)そうだったね。
ほし: あ、覚えてくれてたんだと思って。
あそ: あれはなかなかなかったわ、あんなアツいやつは。
ほし: ああ、そうなのか・・・。けど、なるほど、言われてみればたしかに勢いはあったな(笑)
あそ: (笑)
ほし: あの時、あそさんがライブを終えて、会場に居たじゃないですか。「これ、話しかけても大丈夫なのかな?」って。すこし離れたところで大分モジモジしてたんですよ。でも、会いたい人に会えぬまま亡くなってしまった後悔の経験があったので、それが背を押してくれました。
あそ: ああ、うんうん。ホント話しかけてもらってよかったわ。
ほし: よかった。
あそ: 「寝たきり疾走ラモーンズ」にも入ってるしね(編注:あそどっぐ主演のドキュメンタリー映画)。
ほし: あ〜、ね。ビックリ。恥ずかしいっすね自分で見ると。夢中でしゃべったから記憶があんまりない・・・。けど、たしか最初あそさんに「あなたをカッコイイと思った」みたいなことを言ったら、ちょっと違う感じに受け取られたので「いや違う違う。こうこうこういう風にあなたはカッコイイんだ」っていう話をしたような。
あそ: ねえ、言ってた気がする。
ほし: ねえ、うん。いや〜、ありがたいっすね。
あそ: いえいえ、こちらこそです。

注1:〈障害(仮)〉展。2015年、広島県福山市にある美術館「鞆の津ミュージアム」で開催された展覧会。あかほしはここであそどっぐのコントの映像を見て、あそどっぐを知った。
注2:櫛野展正。〈障害(仮)〉展の企画者。アウトサイダーアートを扱う「クシノテラス」を主宰している。
注3:ネタキリギリスが出てくるのは、コント「観察日記」。全身を緑色に塗ったあそどっぐが小学生に飼育され、観察日記をつけられるなか静かにド下ネタをかます。
注4:ブログ「あそどっぐの寝た集」の「感謝!」にあかほしのことが書かれている。このブログをあかほしが読み、2人は個人的に関わるようになった。

次回、「あそどっぐが相方に会ったさいごの日

あそどっぐ
1978年佐賀県生まれ。熊本在住。お笑い芸人。

あかほしあまね
1991年東京都生まれ。『コバガジン』のライター。

前回の記事はこちら 「あそどっぐ、はじめてのバリバラ」

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