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駄目な漱石論者たち

 夏目漱石 こころ 評論家でグーグル検索してみました。駄目な漱石論者を探すつもりではなくて、素晴らしい漱石論を探す為です。しかしそんなものは見つかりません。お馬鹿な漱石論しか見つかりません。


https://www.1101.com/yoshimoto_voice/speech/text-a134.html

 早速吉本隆明が上がってきました。この内容は「夏目漱石を読む」として文庫本になっているものと同じだと思います。

 全体としてありがちな『こころ』論という印象です。

 ありがちというのは

①現代文Bの辺りにフォーカス

②「私」の立ち位置が摑めない

③恋と友情しか見えない(疑似家族と財産が見えない)

④静を残す意味が摑めない

⑤殉死を当然の事と見做している

 …というタイプの『こころ』論です。


女っていうのはあんまり向上心がなくて駄目だ」とかっていうようなこと、つまりばかにしたようなことばっかり口では言うんですけど、

 そんなこといってましたっけ? 確認してみましょう。向上心と言う言葉は作中四回登場し、Kが一度、先生が二度口にし、一度先生が心中で使います。吉本隆明が勘違いしたのはこの箇所ではないでしょうか。

 彼は自分以外に世界のある事を少しずつ悟ってゆくようでした。彼はある日私に向って、女はそう軽蔑すべきものでないというような事をいいました。Kははじめ女からも、私同様の知識と学問を要求していたらしいのです。そうしてそれが見付からないと、すぐ軽蔑の念を生じたものと思われます。今までの彼は、性によって立場を変える事を知らずに、同じ視線ですべての男女を一様に観察していたのです。私は彼に、もし我ら二人だけが男同志で永久に話を交換しているならば、二人はただ直線的に先へ延びて行くに過ぎないだろうといいました。彼はもっともだと答えました。私はその時お嬢さんの事で、多少夢中になっている頃でしたから、自然そんな言葉も使うようになったのでしょう。しかし裏面の消息は彼には一口も打ち明けませんでした。(『こころ』夏目漱石)

 ここだとしたら、いやここでないにせよ、吉本隆明が言っていることは完全に「間違い」ですよね。解釈の自由ではなく、シンプルに「間違い」ですよね。「女はそう軽蔑すべきものでない」と「女っていうのはあんまり向上心がなくて駄目だ」では方向性が真逆です。書いてあることを読まないで、書いていないことを読む典型的なうっかり批評です。柄谷行人のやり方と同じですね。

「娘さんと一緒にさせてください」っていうふうに言おうかっていうふうに、いつ言おうかっていうふうになっていくんですけども、

これも段取りが変。

「これこれこうで先生のほうから申し込みがあったので自分のほうは受けることにした」

言ってませんね。

だんだん外から見たら分からないように冷たくって言いますか、だんだん離れるようになっていくわけです。

これもちがいますね。確認してみましょう。

 私の知る限り先生と奥さんとは、仲の好いい夫婦の一対であった。家庭の一員として暮した事のない私のことだから、深い消息は無論解らなかったけれども、座敷で私と対坐している時、先生は何かのついでに、下女を呼ばないで、奥さんを呼ぶ事があった。(奥さんの名は静といった)。先生は「おい静」といつでも襖の方を振り向いた。その呼びかたが私には優しく聞こえた。返事をして出て来る奥さんの様子も甚だ素直であった。ときたまご馳走ちそうになって、奥さんが席へ現われる場合などには、この関係が一層明らかに二人の間に描き出されるようであった。
 先生は時々奥さんを伴れて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行をした事も、私の記憶によると、二、三度以上あった。私は箱根から貰った絵端書をまだ持っている。日光へ行った時は紅葉の葉を一枚封じ込めた郵便も貰った。
 当時の私の眼に映った先生と奥さんの間柄はまずこんなものであった。(『こころ』夏目漱石)

 これが外見。仲が良さそうです。吉本隆明はこの内側で先生が静に冷たくしていると勝手に考える訳ですが、本当にそうでしょうか? 一度喧嘩をしていますね。どうもセックスレスであるらしいことも確かです。しかし冷たくしたり、離れて行ったりしたでしょうか。

 私はただ人間の罪というものを深く感じたのです。その感じが私をKの墓へ毎月行かせます。その感じが私に妻の母の看護をさせます。そうしてその感じが妻に優しくしてやれと私に命じます。私はその感じのために、知らない路傍の人から鞭うたれたいとまで思った事もあります、こうした階段を段々経過して行くうちに、人に鞭うたれるよりも、自分で自分を鞭うつべきだという気になります。自分で自分を鞭うつよりも、自分で自分を殺すべきだという考えが起ります。私は仕方がないから、死んだ気で生きて行こうと決心しました。(『こころ』夏目漱石)

 セックスレスはあったとして、その他の点では先生は静に最後まで優しかったというのが事実ではないでしょうか。引用しませんが、結末を見ても間違いないと思います。

 この『こころ』っていう作品を読みまして読後感として残るものっていうのは、先生っていう人物の罪の意識だけが暗闇の中でちょっと光り輝いててって言いますか、あるいは光っていてって、そういう読後感としてはそういう印象しか残らないし

 これでは「暗かった」と言う程度の殆ど頭の悪い高校二年生の感想文ですね。この後吉本は流石にパラノイアと言う漱石の資質に関して面白くなくもない話をするのですが、肝心の作品を読み間違えているので少しも信ぴょう性がありません。

 何度も書いていますが、どうも漱石作品と言うのは一度読んだだけでは解らない様に書かれています。新聞小説を二回読めとは言えないのではないかと言う人もいますが、なら初見から見落としなく読めばいいのです。全部覚えて付け合わせが出来るなら「女っていうのはあんまり向上心がなくて駄目だ」とKが言っていないことも分る筈です。多分大抵の人は漱石より頭が悪い筈です。だから二回読まないと作品としての『こころ』の現時点が見えてきません。『こころ』の結末は先生が全肯定されるところにあります。それが見えていない人は「私」の立ち位置もやはり解らず、変な学生だなあ、としか思わない訳です。

http://criticalworld.seesaa.net/article/426372209.html

 この人はどういう立場でしょうか。素人かもしれませんが堂々と批評していますね。「私」の立ち位置が掴めておらず、現時点がどこかも見えていない。静を残す意味が捉えられていないので批評と言うより感想文レベルと自覚した方が良いでしょうね。

https://wondertrip.jp/91831/
 これも同じです。いい大人が発表すべき文章ではありません。

https://www.sankei.com/article/20160314-LY5Y3ICO25MWHFYXZTZ32O6QSM/
文芸批評家・都留文科大教授 新保祐司氏

「明治維新以来の文明開化の中に生きた2人は、50歳くらいになったとき、乃木大将の殉死という事件に邂逅(かいこう)した。そして、自分の精神の基層にあった日本的精神の何かが噴き出したのである。」

 これは無理があるのでは?

 ここは少し捕捉しますと太平洋戦争を経て、どうしても天皇制というものは揺るぎないものであるかのように思えてきます。思えてきますと言うと何ですが、幼帝を担いだ急ごしらえの明治政府がいつの間にか揺るぎないものに見えてきてしまっていますが、罰を承知で書きますが明治天皇は本当に神ですか?

 漱石も鴎外もそんなことは信じていませんよ。

 漱石も鴎外も静子の死に疑問を持ったことは間違いありません。漱石と鴎外ではその後の態度に差がありますが、明治という時代、殉死をどう見るかという点を見るためには静子が殺されたという事実に気が付かなければならないのではないでしょうか。なんで夫が軍旗を失ったからと言って、奥さんか殺されなければならないの? という当たり前の疑問が出てこないことが不思議です。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/pdf_28-2/RitsIILCS_28.2pp129-146VINCENT.pdf

日本文学をクィア・セオリーで読む:漱石を例に

 よく調べていますがやはり「私」の立ち位置や全肯定の意味が見えていない。そして一番いけないのは男たちだけの関係の中で、静や未亡人の役割を殆ど語っていないこと、捉えきれていないことですね。この人も乃木大将の遺書を読んでいないのでしょう。

https://www.mannequinboy-1.com/entry/2014/09/01/175850

 この人も名無しですね。金銭問題を捉えているのは立派ですが、殉死の意味を取り違えています。

.ac.jp/~th//nitibun/kyudainitibun/26/26_mohri.pdf

 こうして作品の外側からいろんなものを持ち込んで作品を素通りする評論スタイルが一番嫌いですね。殆ど意味のあることが語られていません。

https://www.eco.nihon-u.ac.jp/about/magazine/shushi/pdf/90_01/90_01_09.pdf

 これは殆どゴミですね。

「未亡人」の家 : 日本語文学と漱石の『こころ』

 この人は疑似家族に気が付いているが…あとは駄目です。
https://www.news-postseven.com/archives/20140228_243051.html?DETAIL

 一万人に嘘を教えていた元高校教師のツイートアカウントを見付けました。さて、どうしましょうか?

 







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