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芥川龍之介の『彼 第三』をどう読むか① 大島敏夫はどうなった?
『彼 第三』という作品を読もうと思ったが、そんな作品は見当たらない。
仕方ないから『学校友だち』でも読もう。
これはどうやら小説ではない。
上滝嵬(かうたきたかし)これは、小学以来の友だちなり。嵬はタカシと訓ず。細君の名は秋菜。秦豊吉、この夫婦を南画的夫婦と言ふ。東京の医科大学を出、今は厦門の何とか病院に在り。
なるほど医者か。
平塚逸郎(ひらつかいちらう) これは中学時代の友だちなり。屡僕と見違へられしと言へば、長面痩躯なることは明らかなるべし。ロマンテイツクなる秀才なりしが、岡山の高等学校へはひりし後、腎臓結核に罹りて死せり。平塚の父は画家なりしよし、その最後の作とか言ふ大幅の地蔵尊を見しことあり。病と共に失恋もし、千葉の大原の病院にたつた一人絶命せし故、最も気の毒なる友だちなるべし。一時中学の書記となり、自炊生活を営みし時、「夕月に鰺買ふ書記の細さかな」と自みづから病躯を嘲りしことあり。失恋せる相手も見しことあれども、今は如何いかになりしや知らず。
なるほど腎臓結核で死んだか。気の毒だ。
山本喜誉司(やまもときよし) これも中学以来の友だちなり。同時に又姻戚の一人なり。東京の農科大学を出で、今は北京の三菱に在り。重大ならざる恋愛上のセンテイメンタリスト。鈴木三重吉、久保田万太郎の愛読者なれども、近頃は余り読まざるべし。風采瀟洒たるにも関はらず、存外喧嘩には負けぬ所あり。支那に棉か何か植ゑてゐるよし。
ん?
おかしい。何かおかしい。
この強烈な恋文とこの書きようの間には差があり過ぎる。つまりこれは虚構とまではいわないが、どこか取り澄ました何かである。
つまりこうしたものが芥川龍之介の随筆なのだ。事実そのままではあり得ない。ある角度をつけて場面を切り取る。意匠が生じている。絵になっている。あるいは詩になっている。
そのように書いている。そのように読もう。
[余談]
https://twitter.com/aishokyo/status/1639238194834341888
芥川龍之介の卒論はウィリアム・モリス論でしたが草稿を含めて関東大震災で燃えてしまいました。書簡の中で断片的に触れられています。「Poemsの中にMorrisの全精神生活を辿つて行かうと云ふのだが何だかうまく行きさうもない」 pic.twitter.com/fdr9n8vZga
— 愛書家日誌 (@aishokyo) March 24, 2023
詩人なんだよな。
彼が大学を卒業したのはその前年で卒業論文は「ウヰリアム・モリス研究」であつたことは周知のことであるが、彼の話に依ると社会主義者としてのモリスや、理想を持つた事業家のモリスなどに就いては論究する暇がなかつたので、結局詩人としてのウヰリアム・モリスと云ふのが眼目であつたらしい。彼の諧謔を憶えてゐるが、詩人としてのモリスもどうやら論じ切れないらしいので、少年時代と改めようかなと云ふと、誰かが寧ろ嬰児時代としてはどうだね、と笑つたものださうだ。
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