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甲比丹乃ききすぐすかや沓手鳥 芥川龍之介の俳句をどう読むか188
甲比丹(カピタン)乃つんぼ咎めそほととぎす
[大正十四年六月二十三日 吉田東周宛]
甲比丹もつくばはせけり君が春 ばせを
という芭蕉の句がひねられたものか。甲比丹とは、
1 江戸時代、長崎のオランダ商館の館長の称。
2 江戸時代、日本にやって来たヨーロッパ船の船長。
3 縦糸に色糸、横糸に白糸を用いた縞の絹織物。
「つんぼ」とは耳が聞こえない人のこと。差別用語であるとして、現在では使用することが禁止されている。
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もちろん当時の芥川にはことさら障害を揶揄う意図はなく、ごく当たり前に使われていた言葉を使用しただけで、現在の我々が感じるようなスパイシーな意味はない。村上春樹さんが『めくらやなぎと眠る女』を書いた1983年時点では「めくら」や「ちんば」「びっこ」「かたわ」「きちがい」などの心身に関わる障害に関する言葉が差別的だとして公には使われなくなっており、「めくらめっぽう」「めくらうち」などの言葉は残っていたにせよ「めくらやなぎ」というものが存在するわけでもないことから、こちらはスパイシーな言葉遊びである。ちなみに『めくらやなぎと眠る女』は一時的に耳が聞こえなくなる話でもあるからややこしい。
芥川に苛烈な差別意識がなかったとして「つんぼ咎めそ」と詠んでいるのでそこに欠陥を見ていることは確かなようで、ここで「つんぼ」とは本当に耳が聞こえないのではなく、耳が聞こえない人のように何かを聞き漏らすことを意味しているように私には思える。
甲比丹(カピタン)乃つんぼ咎めそほととぎす
甲比丹がほととぎすの鳴き声を聞き漏らしたようだ、咎めないでおいてやれ、とその程度の意味の句で、甲比丹という耳慣れない言葉を遊んだけの句と思われる。けして「つんぼ」を遊んだ句ではあるまい。
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