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マイナンバー制度の問題点⑧

顧客管理の発想からID・パスワード方式は正論


 マイナンバー制度の問題の一つに、国民の大半がビジネスマンではないという点があります。ビジネスマンならば大抵、顧客管理に関してある程度共通了解があるところ、そうではない集団を相手にしているので、理屈が通じないのです。
 例えばNTTコミュニケーションズ株式会社出身の熊谷俊人氏は千葉市長就任後、住民サービスの向上のために市民ポータルというものを作ります。このアイデアは現在、さまざまな自治体で取り入れられています。

https://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/jichi/documents/26_1shiryou2_1.pdf


 市民ポータル、どこかで聞いたような名前ですね。
 実は日本国住民にはそもそも住民票コードというIDが割り振られているのに、マイナンバーだけ問題にするのは頭が悪いなと自治体職員は考え、ビジネスマンは顧客管理の観点で考えれば、一意で顧客を特定する管理番号の設定は当然だと考えていて、そうではない人たちが住民票コードというIDの存在を知らないまま、マイナンバーだけに文句を言っているわけです。しかも文句の対象となるマイナンバーが何ものなるかということを知らないし、決して知ろうとはしません。

 例えばこの記事を読んで、「あれ、昭和天皇の右眉の上に黒子なんかあったっけ?」と誰一人調べないわけです。
 それはおそらく国会議員も同じですね。

 だから広報は説明を止めて宣伝に終始するのでしょう。説明しても無駄だから、仕組みが複雑だからです。
 つまりそもそも自治体職員しか知らない住民票コードを使いバックヤードで情報連携してしまえばよかったのです。国民に納得してもらうことも必要なく、公報も不要だったのです。
 住民票コードの宣伝なんかみたことがありませんよね。
 しかし住民票コードは(それが合法かどうかは別として)もう実際情報連携に活用されています。
 日本年金機構はマイナンバーを利用した情報連携以前に住民票コードを収集し、住所変更届、死亡届の省略を進めていました。

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/press/20110101.files/0602_01.pdf

 この件に関して大騒ぎをした人はいませんよね。国会質問も福島みずほ氏が「年金の老齢給付裁定請求の手続における住民票コード記載を求める件に関する質問主意書」を出したくらいで、日本年金機構による住民票コードの直接収集に関しては気が付いていない様子です。

 住民基本台帳法では、住民票コードの提供についてこのように規定されています。


(国の機関等への本人確認情報の提供)
第三十条の九 機構は、別表第一の上欄に掲げる国の機関又は法人から同表の下欄に掲げる事務の処理に関し求めがあつたときは、政令で定めるところにより、第三十条の七第三項の規定により機構が保存する本人確認情報であつて同項の規定による保存期間が経過していないもの(以下「機構保存本人確認情報」という。)のうち住民票コード以外のものを提供するものとする。ただし、個人番号については、当該別表第一の上欄に掲げる国の機関又は法人が番号利用法第九条第一項の規定により個人番号を利用することができる場合に限り、提供するものとする。
(総務省への住民票コードの提供)
第三十条の九の二 機構は、総務省から番号利用法第二十一条第二項又は第二十一条の二第一項(これらの規定を番号利用法第二十六条において準用する場合を含む。)の規定による事務の処理に関し求めがあつたときは、政令で定めるところにより、当該求めに係る者の住民票に記載された住民票コードを提供するものとする。
2 機構は、前項の規定により提供した住民票コードが記載された住民票について当該住民票コードの記載の修正が行われたことを知つたときは、総務省に対し、修正前及び修正後の住民票コードを提供するものとする。
3 前二項に規定する場合において、機構は、機構保存本人確認情報を利用することができる。


※昭和四十二年の法律なので小さい「つ」が使われていません。

ここで既に明確になっているルールはさらに念押しされます。


(住民票コードの利用制限等)
第三十条の三十八 市町村長、都道府県知事、機構又は総務省(以下この条において「市町村長等」という。)以外の者は、何人も、自己と同一の世帯に属する者以外の者(以下この条において「第三者」という。)に対し、当該第三者又は当該第三者以外の者に係る住民票に記載された住民票コードを告知することを求めてはならない。
2 市町村長等以外の者は、何人も、その者が業として行う行為に関し、その者に対し売買、貸借、雇用その他の契約(以下この項において「契約」という。)の申込みをしようとする第三者若しくは申込みをする第三者又はその者と契約の締結をした第三者に対し、当該第三者又は当該第三者以外の者に係る住民票に記載された住民票コードを告知することを求めてはならない。
3 市町村長等以外の者は、何人も、業として、住民票コードの記録されたデータベース(第三者に係る住民票に記載された住民票コードを含む当該第三者に関する情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。以下この項において同じ。)であつて、当該データベースに記録された情報が他に提供されることが予定されているものを構成してはならない。
4 都道府県知事は、前二項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復してこれらの規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、当該行為を中止することを勧告し、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な措置を講ずることを勧告することができる。
5 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、第三十条の四十第一項に規定する都道府県の審議会の意見を聴いて、その者に対し、期限を定めて、当該勧告に従うべきことを命ずることができる。


 市町村長、都道府県知事、地方公共団体情報システム機構又は総務省以外は住民票コードの告知を求めてはならないし、住民票データベースを作ってもいけない…素直に読むとそう解釈できます。むしろ他の解釈ができません。何度読み返してもそう思えます。
 そもそも住民基本台帳法全体が、住民票コードを如何に以下に厳重に管理するかということをテーマに構成されているような感じさえします。
しかし現実はこの条文通りではありません。


住民票コードは日本年金機構がデータベース化している

 
Q 住民票コードは必ず届出しなければならないのですか。

A住民票コードの届出は義務ではありませんが、届出いただくと住所変更届が不要になるなどの利点があります。
 このため、住民票コードの収録は、年金に関する重要なお知らせが未着とならないようにするため実施しています。
 お手数ですが、ご自身の住民票コードをお調べいただき、お近くの年金事務所まで届出いただくようご協力をお願いします。(日本年金機構HPより)
https://www.nenkin.go.jp/faq/kirokutorikumi/kini-cam/tourokuhagaki/20130807-03.html


 日本年金機構はこのように年金加入者に対して住民票コードの告知を求めています。そして社会保険オンラインシステムの構成図を見ると、地方公共団体情報システム機構は日本年金機構に対して住民票コード(住基番号)をプッシュ通信しています。


https://www.nenkin.go.jp/info/torikumi/sasshin/project/gaiyou.files/0000022691iykRNxvar9.pdf


日本年金機構においては、公的年金にかかるサービスの向上、本人確認の徹底やマイナンバー制度の円滑な施行のため、基礎年金番号と住民票コードとの「結び付け」を行っております。
この「結び付け」を一層促進するため、平成28年9月より、厚生年金保険に加入する際の「被保険者資格取得届」に基礎年金番号を記入している方についても、住民票コードを特定し、本人確認を行うことと致しました。本取組は、架空従業員の不正な被保険者資格取得の防止の徹底にもつながると考えております。(日本年金機構HPより)


https://www.nenkin.go.jp/info/johokokai/disclosure/nendokeikaku/kako.files/290401.pdf


 またこのように堂々と宣言されています。このことは拙著『Society5.0』でも指摘しましたが、そもそも誰も住民票コードには興味がないので何のことなのかわからなかったと思います。
 ただ事実のみを書けば、「住民票コードは日本年金機構がデータベース化している」けれども「住民基本台帳法には違反しているように思える」ということです。

 しかし問題はこうした話をそもそも理解できる人間が存在しないということです。

 だから、こんなことが分からないわけです。

 だったらいっそマイナンバーも宣伝を止めたら?

 と、私は考えています。住民票コードみたいにこっそり生体認証情報を回収してデータベース化してしまった方がむしろスマートなのではないでしょうか?

 マイナンバー制度の根本の問題はこっそりやらなかったことです。




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