顧客管理の発想からID・パスワード方式は正論
マイナンバー制度の問題の一つに、国民の大半がビジネスマンではないという点があります。ビジネスマンならば大抵、顧客管理に関してある程度共通了解があるところ、そうではない集団を相手にしているので、理屈が通じないのです。
例えばNTTコミュニケーションズ株式会社出身の熊谷俊人氏は千葉市長就任後、住民サービスの向上のために市民ポータルというものを作ります。このアイデアは現在、さまざまな自治体で取り入れられています。
市民ポータル、どこかで聞いたような名前ですね。
実は日本国住民にはそもそも住民票コードというIDが割り振られているのに、マイナンバーだけ問題にするのは頭が悪いなと自治体職員は考え、ビジネスマンは顧客管理の観点で考えれば、一意で顧客を特定する管理番号の設定は当然だと考えていて、そうではない人たちが住民票コードというIDの存在を知らないまま、マイナンバーだけに文句を言っているわけです。しかも文句の対象となるマイナンバーが何ものなるかということを知らないし、決して知ろうとはしません。
例えばこの記事を読んで、「あれ、昭和天皇の右眉の上に黒子なんかあったっけ?」と誰一人調べないわけです。
それはおそらく国会議員も同じですね。
だから広報は説明を止めて宣伝に終始するのでしょう。説明しても無駄だから、仕組みが複雑だからです。
つまりそもそも自治体職員しか知らない住民票コードを使いバックヤードで情報連携してしまえばよかったのです。国民に納得してもらうことも必要なく、公報も不要だったのです。
住民票コードの宣伝なんかみたことがありませんよね。
しかし住民票コードは(それが合法かどうかは別として)もう実際情報連携に活用されています。
日本年金機構はマイナンバーを利用した情報連携以前に住民票コードを収集し、住所変更届、死亡届の省略を進めていました。
この件に関して大騒ぎをした人はいませんよね。国会質問も福島みずほ氏が「年金の老齢給付裁定請求の手続における住民票コード記載を求める件に関する質問主意書」を出したくらいで、日本年金機構による住民票コードの直接収集に関しては気が付いていない様子です。
住民基本台帳法では、住民票コードの提供についてこのように規定されています。
※昭和四十二年の法律なので小さい「つ」が使われていません。
ここで既に明確になっているルールはさらに念押しされます。
市町村長、都道府県知事、地方公共団体情報システム機構又は総務省以外は住民票コードの告知を求めてはならないし、住民票データベースを作ってもいけない…素直に読むとそう解釈できます。むしろ他の解釈ができません。何度読み返してもそう思えます。
そもそも住民基本台帳法全体が、住民票コードを如何に以下に厳重に管理するかということをテーマに構成されているような感じさえします。
しかし現実はこの条文通りではありません。
住民票コードは日本年金機構がデータベース化している
日本年金機構はこのように年金加入者に対して住民票コードの告知を求めています。そして社会保険オンラインシステムの構成図を見ると、地方公共団体情報システム機構は日本年金機構に対して住民票コード(住基番号)をプッシュ通信しています。
https://www.nenkin.go.jp/info/torikumi/sasshin/project/gaiyou.files/0000022691iykRNxvar9.pdf
またこのように堂々と宣言されています。このことは拙著『Society5.0』でも指摘しましたが、そもそも誰も住民票コードには興味がないので何のことなのかわからなかったと思います。
ただ事実のみを書けば、「住民票コードは日本年金機構がデータベース化している」けれども「住民基本台帳法には違反しているように思える」ということです。
しかし問題はこうした話をそもそも理解できる人間が存在しないということです。
だから、こんなことが分からないわけです。
だったらいっそマイナンバーも宣伝を止めたら?
と、私は考えています。住民票コードみたいにこっそり生体認証情報を回収してデータベース化してしまった方がむしろスマートなのではないでしょうか?
マイナンバー制度の根本の問題はこっそりやらなかったことです。