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芥川龍之介論2.0

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#吉田精一

芥川龍之介の『僻見』が読めない

芥川龍之介の『僻見』が読めない

 

浅香三四郎

 浅香三四郎とは芥川のペンネームの一つである。淺香三四郞龍雄は一刀流の達人で加賀藩に仕えた小姓である。

 講談本の登場人物のような名前だなと思ったら、本当に講談本の主人公だった。

 芥川は帝大時代「三四郎とは話さない」と田舎者を嫌っていた。そこからすると妙なペンネームである。そもそも小川三四郎という名前は石川三四郎由来ではないかと私は思っているが、小川三四郎は小宮豊隆がモデ

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芥川龍之介 漢詩「波根村路」

芥川龍之介 漢詩「波根村路」

波根(はね)村路

倦馬貧村路
冷煙七八家
伶俜狐客意
愁見木綿花

けんばひんそんのみち
れいえんしちはちか
れいべんこかくのおもひ
うれひみるもめんのはな

[大正四年八月二十二日 恒藤恭宛書簡]

※吉田精一は「怜俜」に注を付けて「おちぶれるさま、さまようさま」としている。

「怜」の読みは「レイ」または「リョウ」、「俜」の読みは「ヘイ」「ヒョウ」「ベイ」であり「べん」はない。芥川はこの語を

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芥川龍之介の『三右衛門の罪』をどう読むか② 何だよその書き出しは?

芥川龍之介の『三右衛門の罪』をどう読むか② 何だよその書き出しは?

何だよその書き出しは

 ロベルトカルロスの伝説のフリーキックが、実は左足のアウトサイドではなく左足のインフロントキックであることをスーバースローで初めて知った時、やはりサッカー経験者なら必ず驚くに違いない。アウトサイドでシュート回転のボールを蹴ることもインフロントでカーブ回転のボールを蹴ることもそう難しくはない。しかしインフロントでシュート回転のボールを蹴るということは大抵の人にはできないだろう

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芥川龍之介の『三右衛門の罪』をどう読むか① 仕掛けたのは誰なのか

芥川龍之介の『三右衛門の罪』をどう読むか① 仕掛けたのは誰なのか

 吉田精一という人は惨めな人だった。芥川作品の良さを見いだせず、例えば保吉ものを「私小説風身辺雑記」としてしか読むことが出来なかった。繰り返し書いているように『魚河岸』を除く保吉ものは失われたものを回顧の形で書くという形式を持っており、関東大震災の津波に流された阿蘭陀の風俗画じみた、もの静かな幸福に溢れてゐる鎌倉の風景を描いた『あばばばば』などは極めて大胆な構図を持った傑作の一つである。

 吉田

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何故芥川龍之介作品は誰にも読まれなかったのか① 吉田精一を永久追放しないと駄目だ

何故芥川龍之介作品は誰にも読まれなかったのか① 吉田精一を永久追放しないと駄目だ

 まだまだ芥川龍之介については書きかけですが、これまでのまとめとして、何故芥川龍之介作品は誰にも読まれないのか、という点に関して、まずは「読まれていない」という事実を具体的に確認しながら振り返っていきたいと思います。

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 まず驚いたのは、この点でした。

 これがいささか質の悪い冗談でないとしたら、仮にも小説を書こうとする人に指南しようという立場の人間が、芥川の『藪の中』や

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芥川龍之介の『お辞儀』をどう読むか

芥川龍之介の『お辞儀』をどう読むか

何の匀い?

 吉田精一が「身辺雑記的な私小説」とした「保吉もの」からもう一篇読んでみよう。そもそも吉田精一は、とうにこの世にないことからいささか残酷かもしれないが仕方ない。夏目漱石同様、芥川龍之介も誤読され、読み飛ばされては惜しい作家だ。誤読され、読み飛ばされても惜しくない作家は阿保程存在するが、そうでない作家は少ない。

 主人公・保吉が作者と同じ三十歳。『あばばばば』ではどうも大正五年から鎌

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