2024年6月の記事一覧
芥川龍之介の『玄鶴山房』をどう読むか① 保吉ではないんだ
たまたまなのか何なのか芥川龍之介の『玄鶴山房』に関して私はこれまでまともな記事を一つも書いてこなかった。
うっかり?
そうかもしれないし、そうではないかもしれない。
いずれにせよ、書いておこう。
中央公論昭和二年一、二月号に発表される『玄鶴山房』は前年の十二月頭には書き始められていて本人の自覚としては「陰鬱極まる力作」ということらしい。この時期複数の作品が並行して書かれていた可能
佐藤春夫の『病める薔薇』の落書きをどう読むか① 虎じゃなくて猿じゃないか
三島由紀夫の『花ざかりの森』が佐藤春夫の『指紋』由来ではないかと調べていたら、やたらと書き込みのある『病める薔薇』に出会った。見出し画像がそれである。
この本の持ち主は何か書いている人らしい。
そうでなければここに線は引かない。
こうして試し書きがされる。割と達筆な、しかし読みやすい文字を書きなれている人の字だ。
「このあたり阿部次郎の『三太郎の日記』乎『理想の家』を思い出させる」
その日は徹夜した 芥川龍之介の『かちかち山』をどう読むか①
案外なのか何なのか、芥川龍之介は戦争というものを当初そんなに意識していなかった。
そんなこともないか。
つまり自身が海軍将校になるかもしれないと考えたこともあり、海軍機関学校に英語教師として勤務したこともあり、太宰的な感じで森鴎外の軍服姿を嫌悪したり、戦争は悪だ、みたいな発言をしたりという、厭戦的なものは見えなかった。
なんというか、戦争とは直接かかわりはしないけれど、どこかにあり、社
とてもさみしがりや 芥川龍之介の『窓』をどう読むか①
――沢木梢氏(さはきこずゑし)に――、と献じられている。
沢木梢氏とはこんな人である。慶應義塾大学の教授になりたかった芥川を応援してくれたそうだ。結局なれなかったが、その感謝の気持ちが捧げられてゐるのであろう。
それにしてもこの『窓』という作品は奇妙なもので、言ってみればリアリズム小説としては成立しない、おとぎ話のような、それでいてどこか作者自身とも重ねられるような妙な味わいのとても短