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夏目漱石論2.0

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2023年11月の記事一覧

しぐるるや犬も小蓑をほしげなり 芥川龍之介の俳句をどう読むか90

しぐるるや犬も小蓑をほしげなり 芥川龍之介の俳句をどう読むか90

時雨るゝや犬の来てねる炭俵

 松尾芭蕉の句の中で犬と時雨の取り合わせはこの二句のみ。

ゆく雲や犬の逃吠村時雨

草枕犬もしぐるゝか夜のこゑ

 芭蕉の句に炭俵の文字は見えない。

 言っていることは解りますか。炭俵集はあれど炭俵の句はない。

 自分の適当な感覚だけで適当なことを言って格好をつけない。そういう態度こそが俳句から最も遠い精神の表れだということです。

 さて犬嫌いの芥川が時雨を避

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餅花を吾輩先生にささげばや 芥川龍之介の俳句をどう読むか62

餅花を吾輩先生にささげばや 芥川龍之介の俳句をどう読むか62

餅花を今戸の猫にささげばや

 この句には、

 という言葉が添えられていて、さらに『澄江堂雑詠』において

 こう説明されているので、どうしても今戸焼が解らないと鑑賞できない。この「今戸の狐」は落語にある「今戸の狐」のことで、落語の中に出てくる「今戸の狐」はどうしても今戸焼の狐になる。

 ここを今戸の猫=今戸神社の猫、招き猫と解釈するのはそう外れたものではない。結局その招き猫が今戸焼の猫なのだ

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芥川龍之介 「漱石先生の長逝を悼む」

芥川龍之介 「漱石先生の長逝を悼む」

こうやって手紙を書いていても先生の事ばかり思い出してしまっていけません
逝去されたあくる日に先生のお嬢さんの筆子さんが学校へ行かれたら国語の先生の武島羽衣が作文の題に「漱石先生の長逝を悼む」と云うのを出したそうです
そうしてそれを黒板へ書きながら武島さん自身がぽろぽろ涙をこぼすので生徒が皆泣いてしまったそうです
それから又先生の主治医の真鍋さんは医科大学の先生をしているんですが対学生は皆大山さんの

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芥川龍之介 「来るものをして来らしめよ」

芥川龍之介 「来るものをして来らしめよ」

 

①あなたのものは大変面白い
②落ち着きがあって
③ふざけていなくって
④自然そのままのおかしみがおっとりと出ているところに上品な趣があり
⑤材料が非常に新しいのが目に付く
⑥文章が要領を得てよく整っている

 と夏目漱石は『鼻』を褒めている。

 鼻の曲折に関してはまさにそこに肝があると既に書いた通り。

 成瀬は『水滸伝』、松岡は仏教に題材をとり、いささか時代がかった作品を書いたように推測

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