コオロギとエコとエゴイズム
食用コオロギを養殖するベンチャー企業のグリラスが破産しました。この出だしで理解いただけると思いますが、人は環境よりも自分の好みや文化を優占しますよね、という話です。
株式会社グリラスは徳島大発のベンチャーで、環境負荷を軽減しながら将来不足するであろうタンパク源の確保を目的として食用コオロギを養殖していた会社です。給食の原料にコオロギ粉末が採用されたというニュースから風当たりが強くなり、食用ではなく家畜飼料の原料用に切り替えましたが、最終的には補助金が得られなかったために破産したようです。公開情報をざっくりまとめるとこんな形だと思います。
将来不足するタンパク源の確保と、畜産における環境負荷の話題は起業界隈ではわりと出てくる気がします。コオロギだったりプラントベースだったり、細胞培養による肉の製造だったり。昆虫食は実際に文化として存在しますし、タンパク源になる。ただ、日本は昆虫食に慣れていない人が圧倒的に多いので、そこを乗り越えるのは難しいだろうなと思っていました。私はグリラスが資金調達に励んでおられるころから知ってました(関わりはないです)し、コオロギ粉末を使ったチョコ味のプロテインバーは成功するんじゃないかと思っていました。あれは食べても言われなければコオロギが入っていることはわからないと思います。他社の昆虫食スナックは一通り食べてみましたので、私は食べもしないで「グリラスは補助金狙いの会社だ」とか言ってる人達よりかは語る資格があると思います。
私は比較的環境に配慮したほうが良いよなとは思うほうです。しかし、綺麗事ばかり言う人はあんまり好きじゃない。特に理系で技術や知識を持っているのに、知らない人をごまかそうとする人達は極力関わりたくないと思っています。将来的には確かに夢のような技術革新が起こって色々できるようになるかもしれないけれども、現時点ではそれは夢物語。そんな話をさも今すぐできます!的に話す人達は罪深いよなぁとすら思うんですよね。まぁそれも仕方ないんですけど、それは別のお話。
同様に、技術を理解しようともしないであれは駄目だこれは嫌だという人も好きじゃないです。最悪なのは、明らかに無知が原因で間違った知識を広める人。COVID-19の時にPCR検査やワクチンで変な解説してたYoutuber、たくさんいましたよね。否定も肯定もどっちでも良いんですが、明らかに違うな、という内容を根拠にして不安を煽る人は本当に罪深い。
話が少し逸れたのでもとに戻します。グリラスは技術的には実現可能な未来を描かれていたと思います。ただ日本では馴染みがないだけで。同じように昆虫食を広めたいと考えておられる蟲喰ロトワさんが代表を務めているTAKEOは「日本では昆虫食ベンチャーは難しい」と考えて海外に行かれてます。このあたりはすごく興味深いので、TAKEOのウェブサイト等をご覧ください(私はTAKEOとも関わりはありません)。
私が今回興味深いなと思ったのは、世の中SDGsやらエコが云々という人がたくさんいる中、コオロギ食のように「みんながやったら良い未来があるかもね」という物をあまりやらないということなんですよ。多分グリラスの提供する物を試してみる人がもっと多かったら、もう少し違ったんじゃないかなと思います。結局、ビジネスをやるうえでは買って貰わない(利益が上がらない)と続けられないので、良いことであっても続けられない。善意だけで回っているものは本当に少ないんです。グリラス関連のコメントを見ると、コオロギなんて食べたくない、という意見がほとんどです。擁護者が少ないのではなく、擁護する人はコメントしづらいという可能性もありますが、どちらにしても、「環境問題よりも個人の好みが優先されてしまった」ということですよね。
私も昔は虫は食べられない、無理だと思っていましたが、他国へ行って昆虫食が出てきた時に、試しもしないで嫌な顔をしたくないな、と思って食べてみることにしました。今では、勧められたら嫌な顔はしないで食べられます。生きたままはちょっと遠慮したいですが、「慣れていないので火を通してくれ」と言う余裕は持てるかな。このことは、「私は多様性を受け入れようとした」と言えるのではないでしょうか。普段「多様性ってしゃらくせーな」と思っている私がそう思ったことに今気づいて驚きです。
私個人は今のメディアや若者に溢れる「多様性尊重」という考えは、すごく偏っていると思います。多様性を認めろ!と言うなら反対意見も受け入れなければ多様性を認めたことにはなりません。昆虫食を食べたくない人もいる。でも、食べたい人もいる。それで良いんじゃないの。
この記事で書きたいことは、みんな偽善者だよな、ということではないです。やっぱり食べたくないものは食べたくないし、受け入れたくないものは受け入れたくない。それは仕方ないことですよね。でもやらなきゃいけないことは、皆で考えないといけない。未来の課題や公平性を無視するわけにもいかないですよね。
なので、私は「コオロギなんて食いたくないからつぶれて当然」なんていう人達を見ると、コイツらはエゴイストだよなと思います。結果はどうであっても、グリラスの人たちは将来の課題解決にチャレンジした。もしかしたら途中に色々あったかもしれませんけど、純粋にそう考えておられて起業されたんじゃないでしょうか。もし関係者の方々が居られたら「お疲れ様でした。やっぱり難しかったですね」と労ってあげたいです。むしろそういう社会であってほしい。