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40代でリ・デザインする自分のミライ -7-

想像してごらん、未来が一つとは限らないということを。

今の40代は、父は働き、母は専業主婦という家庭で育った人が多いのではなかろうか。そんな時代に子育てをしてきた我々の親は、「男は仕事、女は家庭、子供は受験」で幸せになれた。そんな親たちの成功体験を目の当たりにしてきたというのに、いざ自分たちが大人になれば就職氷河期で、大学を出ても就職できない人が続出、山一證券など大企業も倒産。いい大学に入り、いい会社に入り、結婚すればハッピー、そんな人生はすでに過去のものになっている。狂乱のバブルに酔いしれたわけでもなく、生まれた時から不況なわけでもない狭間の時代に生まれた。思い描いてきた筋書きとの違いに戸惑いながらの20数年、気がついたらすっかり中年になってしまった。

人生80年とするならば、残り40年近くもの人生が残っている。定年が65才ならば、あと20数年は働かねばならない。しかも、家のローン、子供の学費、親の介護など、自分の周りを見渡せば、頭を悩まし、苦しく、困難な現実の厳しさを抱えている。
ましてや、最近の社会情勢、経済の趨勢を考えると、この先の予測は容易ではない。むしろ、長期的な計画を立てること自体に意味があるのか、疑問すら感じさせられる。考えれば考えるほど、プラス要素が思い浮かばなくなってくる。

だが、そう悲観してばかりもいられない。
佐々木氏と前園氏の足跡を辿ると、色々な気づきがあった。
叩き上げた専門性を掛け合わせて着実にステップアップし、フリーとして豊富な経験を生かした佐々木氏。
確固たるバックボーンがなくとも、自分なりにやりきることを実践し、新たな動き(指導)も始めた前園氏。

状況がどんどん変わるこのような時代だからこそ、自分の経験やスキルの何が、自分の人生に、これからの社会に、役立てられるのかわからない。
ならば彼らのように、状況を見ながら少しずつでも広げたり変えたりして、自分の歩む道を見直していく必要があるのではないか?
この問いに佐々木氏はこう答えた。

「それには、『リーン・スタートアップ』という考え方が向いているかもしれません」
「リーン・スタートアップ」とは、アメリカの起業家エリック・リース氏が提唱した起業のためのマネジメント手法である。
何かをやろうという時に、あまり大掛かりに攻めないで(リソースをあまりかけずに)、小出しにやっていくという手法である。

例えば、お店を出す時に、貯金が1000万円あるとして、1000万円全部を投資して失敗したら終わりである。しかし、100万円でできるなら、まずそれをやってみる。小出しでやってみて、失敗したらすぐに手を引く。うまくいったら、少しずつ増やしてみる。これを繰り返していく。

「私もリーマンショック以降の出版不況時に、小刻みにやってみて状況が悪くなりそうだったら、手を引くスタイルでやっていました。」
要は、物事を進める時に、大きな覚悟は不要で、むしろ覚悟はしないぐらいがちょうどよい。清水の舞台から飛び降りるような覚悟は必要ない、ということだ。

現代のような不確実性の高い社会を歩むためには、佐々木氏が体現した専門性の掛け算も参考にできる。
彼は「IT×事件」を軸にキャリアを築いた。磨いてきた専門性も一つだけなら頼りないが、複数の専門性を掛け合わせることで、一つだけの専門性より希少性が高まる。
専門性の掛け算は、活かし方次第では有用性があり、期待がもてる手法だ。
しかし、この手法を、今から始めて一朝一夕で築き上げるのは、そんな容易いことではない。

これについて、佐々木氏はこう答えた。
「何も深い専門性にこだわらずとも、副業を複数もつだけでも希少性は高まります」
これは、深い専門性がなくても、並のスキルを複線化することで、他者との差別化を図れるということだ。
しかも、スキルの複線化は、一つがダメになった時のリスクヘッジにもなる。
ここで大切なのは、専門性の深さや習得するスキルの種類ではなく、キャリアの選択肢をもち、いつでも方向性を選べるようにしておくことである。

個人として、確固たる選択肢をもっていれば、会社などの組織とも依存しない関係性を築くことができる。組織の支配下におかれ、何かと制約の多い雇用関係ではなく、互いに依存し過ぎないパートナー的な関係を築いた方が、組織と個人の双方にとっても健全ではなかろうか。
一つのキャリアに依存しないことは、リスクヘッジになり、唯一のキャリアに支障をきたしたり喪失する精神的な不安も回避できる。

そのためにも、ここで一度、自分のキャリアの棚卸しをしてみてはどうか。
自分は何をやってきて、何にこだわり、何をするときが楽しかったか、苦しかったか。これらの酸いも甘いも振り返り客観視すれば、何かが見えてくるかもしれない。一見、新卒の就活時代のようだが、人生経験を重ねてきた今だからこそ、見える深さも違い、より見出せることがあるかもしれない。
もし、スキルの掛け算や複線化のヒントを見出すことができたならば、それは幸運なことだ。このヒントを踏まえ、これから自分がやりたいことや理想のイメージと重ね合わせてみて、できることから始めてみる。

できることや、できそうなことが複数あるならば、とにかくたくさん手を動かす意識でいろいろ試してみる。さらに、できるならばスピード重視を意識した方がよい。
思ったことや考えていたこと(インプットされていること)を、すぐにアウトプットすることで、インプットがさらに深まり記憶に定着して身につく。別に判断に少々の誤りがあってもよいのではないか。

とにかく手を動かして(行動して)、少しずつでも前へ向かい経験を積み重ねていく。要は、トライアンドエラーを繰り返すと言うことだ。
これにより、少なくとも昨日の自分よりは、知見を広げることができる。これをどんどん繰り返し経験を積み重ね、ルーティン化する。すると、スキルの掛け算や複線化につながり、この先への期待も高まっていくだろう。
現状に思い悩み、躊躇して、立ち止まる状態と、つまずきながら少しでも前へ進むのと、どちらがよいだろうか。

このルーティンは、何もスキルや経験の積み上げと広がりを目的にするのでなく、人間関係にも展開できる。多くの人は人間関係の場として、「家族・友人関係」、「仕事(会社・顧客)関係」と、少なくとも二つのステージをもっているだろう。これに加えて、第三のステージを築いてみてはどうか。
例えば、社会人交流会に参加してみてもよいし、今どきならオンラインサロンなどに参加してみてもよい。これらは直接的な利害関係は薄いが、参加者どうしの志は近い関係性にあると言えよう。これらコミュニティに参加してみて、交流を深め、ふだんの環境では触れることのない知見を吸収する。可能であれば複数のコミュニティに参加することで、偏りのない広がりもつくってみる。
スキル・経験面と人的交流面の選択肢を増やしていくことで、人生の質としての厚みが増し、幅も広がる。そんな自分の状態を認識できれば、この先への楽しみが増えていく期待感も出てくる。

今、我々40代が、まず為すべきことは、この先を見据えて、自分の方向性を見定めることである。
そのために、できることならば、キャリアの選択肢を増やす行動をしていくべきだ。仕事だけでなく、家族のあり方やライフスタイルも含めて、進む道は一本道と決めつけなくてよい。一つしかないと思い込み、悲観する必要もないのだ。最初は考えの浅い、直感的な行動から始めてもよい。とにかくどんどん手を動かし、可能性を広げていくのだ。

もし、少しでも懸念や悔いを感じることがあるならば、深入りする前に別の道へ目を向け、キャリアの数を積み重ねていくのも一つだ。これを続けていくことで、最初は浅くても、続ければ深みや広がりが増してくる。どんな経験でもその活かし方や広げかたしだいで、可能性は出てくる。
将来を悲観し、思い悩む時間があるならば、自分のこれまでを振り返り、やってきたことの掛け算から考えてみよう。自分にとって良いこと悪いこと、積み重ねた経験やスキルは、決して無駄ではない。本当に無駄にしてしまうかどうかは、今の、これからの自分しだいだ。

その精神で、人生の後半戦に向けたグランドデザインを決めよう。
そして、それを少しずつ実行していく。状況が厳しくなれば、すぐに修正し、また別の道を進めばよい。
進むべき道は、決して一つじゃなくてもよいのだ。

【了】

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