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シナリオ⑥

第一章 図書館

前回までのあらすじ

 高3の夏、友人のユウマと地元の図書館を訪れていた。ある日、図書館内で同じ高校に通うのんという女性に出会う。彼女の名前と存在は、以前からSNSを通じて知っていた。しかしリアルで会うのは、今回が初めて。初めて対面したことで、僕はのんに一目惚れしてしまった。そこで彼女と仲良くなりたいと考え、メアドを記した置き手紙を渡す。その結果、何とかメールをのやりとりをすることになった。

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 それからというもの、夏休み期間の約1か月は毎日図書館に通った。

 そして夏休み最後の日。炎天下の中、いつも通り下り坂を猛スピードで駆け降りる。至る所でセミ達が鳴いている。確かに最終日以外は鬱陶しく感じていた。しかしこの日は違う。緊張のせいであろうか。全く耳に入ってこなかった。

 駐輪場で自転車を止め、図書館への階段を駆けあがる。とうとうこの日がやってきたのだ。


 
メールアドレス交換後は、毎日のように連絡をとりあった。当時はちょうど、LINEが流行り始めた時期である。

 しかし大衆の行く道には進まない。今はもうメールを使う頻度は激減したが、当時の僕達はLINEアンチを語りメールにこだわっていた。すぐ先の未来では、「既読無視がどうだ」「未読無視はああだ」などすっかり翻弄させているというのに。

 メールのかいあってか、図書館で出くわすと気兼ねなく立ち話をするような間柄になった。

 最初こそ図書館という静寂な世界で会話をするなど恐れ多かった。しかし徐々に2人の仲が深まることを感じていくと、周りの環境など全く見えなくなっていた。

 恋は盲目。

 そういえば一番最近の彼女が言っていた。

 まさに高3夏の僕の目は、のんという1人の女性の像しか映していなかったのだろう。

 夏休み最終日、僕は1つ成し遂げるべきことを決めていた。

 

 

 その当日、図書館に入るとすぐにのんと鉢合わせた。いつも通りの黒髪ショートが世界で1番似合う顔立ちで、彼女は言った。

 「おはよ!今日は1人なんだね。」

 そこからいつもなら立ち話を始める。

 しかしその日は軽く挨拶を返すと、僕はすぐに席へと向かった。変に察されたくなかったからだ。この時から、俗に言う九州男児のような不器用さを持ち合わせていたのだろう。今考えると実に滑稽である。

 そして夕日が沈み外では街灯が明かりを灯す。セミ達も合唱を止めていた。

 あと30分で図書館は閉館する。そのタイミングで、のんにメールを送った。

 「閉館したら、図書館前のベンチに来てほしい」

 そのメールをしてからというもの、ペンを持っている手は全く機能しない。まさしく盲目状態である。

 この状況に耐えられず、僕は閉館の10分前には外に出た。相棒のママチャリと共に待ち合わせ場所に待機していた。

 待っている間、気持ちの高ぶりを抑えきれなかった。そのため自転車後輪のスタンドを立て、止めた状態でペダルを爆漕ぎした。

 この異常行為については、彼女には暴露せず墓場まで持っていこうと思う。

 閉館時間から10分後、彼女は待ち合わせ場所に姿を現す。

 ベンチに案内して2人で腰を下ろす。目の前には海が広がり、向こう岸の街並みの光が美しい。

 ここは絶好のロケーションだった。

 最初の話題は、お互いの勉強進度について。ある程度話し終わったところで、

 「あのさ」

 先ほどとは一変して、真剣な眼差しで隣の女性を見つめる。

 やはり黒髪ショートが似合う。少なくとも福岡黒髪ショート1番似合う選手権があれば、優勝は間違いないであろう。

 そんな顔立ちに圧倒されつつも、勇気を持って伝えた。

 「実は一目惚れしてまったんよ。のんに会ってから。」

 潮風に乗ってくる海水独特の匂いが、僕の鼻腔を襲う。匂いは確かに強烈ったが、その風自体はこれまで浴びた風の中で1番気持ち良かった。

 「君は福岡の気持ち良い風ランキング1位だ」そう心の中で風に伝えつつ、僕は彼女の返事を待った。









ちなみに2020年4月時点での、風ランキング1位は大学休学中の職場で食らった、風速20m君という風です。この風の影響で所属部署は、終日休業になりました。


続く

 

 

 

 

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