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シナリオ②

第一章 図書館

特等席住人 

部活を引退し、僕は友人のユウマと地元の図書館を訪れた。時は高校3年生の夏、外ではそこら中で鬱陶しくセミが鳴いていた。この冬には、大学入試を控えている2人。お互いに1人では勉強が捗らないという口実の下、この時期に限っては頻繁に図書館へ足を運んだ。

 そんな夏のある日、僕たちはいつも通り横並びの席に腰を下ろした。正直、その席には不満があった。なぜなら、もっと良い席があるからだ。それは、図書館前の海が一望できる席。そんな特等席は、いつも誰かに取られている。しかもその席は、毎回同じ人達が占領しているようだった。嵐のコンサート並みの倍率の高さである席に、いつも同じ人が座っている。1人心の中で、それが誰なのか知りたくなっていた。

 その日はこの好奇心と上手く向き合いながら、必死に小論文対策を行っていた。集中力が落ちてきた昼過ぎ、急に尿意が膀胱を刺激する。

 「トイレ行ってくるね」

 隣のユウマに小声で伝えると、「そんな報告いらねえよ」と言わんばかりの顔で、彼は首を縦に振った。返事を確認しトイレへ向かう。

 その数秒の道中で、僕はある女性と出くわした。思わず声をかける。

 「あっ、、、、、え~と、、、、のんさんですよね?急にごめんなさい。自分は8組のあんって言います!」

 facebookの共通の友人欄に、彼女が出ていたため名前と存在自体は知っていた。ネット上で見た時点では、「こんな人がいるんだ~」程度の気持ちで、僕の心中は終わっていた。

 この自己紹介をしている時、心臓は心拍数を上げていた。静寂な図書館の中で、本当にたちが悪い。危うく鼓動が、彼女に聞こえてしまいそうだった。これは尿意を抑えている緊張ではない。確実に目の前の女性に対しての、張り詰めた感情であった。

 「あっ、、、、そうですけど、、、、、まさかこんな所で会うなんてね(笑)」

 彼女は一瞬困った表情を見せたが、その後は素敵な笑顔を見せてくれた。

 言うまでもない。この図書館は、僕たちが通っている高校からは、ほど遠い距離にある。加えて2人は同じ高校に通いながら、2年間で1度も会うことがなかった。初対面の現場が、この図書館になるとは思いもよらなかった。

 その返事から、何を返せばいいか分からない。彼女の声を聞いたタイミングで、頭の中は真っ白になっていた。返す言葉が見つかず、

 「勉強頑張りましょうね。」

 無意識にそんなありきたりな言葉を伝えてしまった。

 「はい。」

 何ともぎこちない「頑張ろう」の言葉に、彼女は返事をした。その後、お互いに目的地へと歩き出した。

 用を足し、席に戻っても僕の心臓は激しく暴れている。まるで臓器内は、ナイトクラブのように弾んでいた。ズンズンズンと音を響かせる心臓を抑えるように、僕は席に着く。

 腰を下ろそうとした瞬間、あの特等席が目に映った。そこに腰かけている後ろ姿は、確かにトイレへの道中で出会ったのんであった。

 「長かったね。」

 そう言って隣でワークを進めているユウマ。僕は彼の言葉に空返事をした。 

 一目会っただけで、電気が走る。ビビッと感じ、いつの間にか好きになってしまう。世間ではこの現象を、一目惚れという。

 その特等席住人からの放電によって、その日の勉強は全くもって進まなかった。当時17歳の僕にとっては、刺激が強すぎたようだ。

続く

 

 

 


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