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生きる意味 「うそだろ」 液晶画面は、自分がプレゼントした腕時計を映し出す。シュンは驚きを隠しきれず、一目散に家を飛び出した。 雪の影響で滑りやすくなっているにも関わらず、階段を1つ飛ばしで降りて行く。自動ドアのロビーで一時停止するも、そこからは全速力で事件現場へと走った。 走ること10分、シュンの体から季節外れの汗が大量に噴き出す。 「あと少し。」 自分を奮い立たせた瞬間、アヤと過ごした思い出がシュンの頭の中を巡った。 出会いはシュンの
giverとtaker 2020年5月。 「これが収まったら同棲しよう。だから大丈夫。俺らなら大丈夫。」 真夜中の2時、電話越しでシュンは必死にアヤを励ます。 それは2人に自宅待機命令が下され、2ヵ月が経過していた頃である。 この年の初め、世界では感染症が大流行した。国内には観光客が消え、町には人が消え、飲食店・観光業など多くの業界は休業を余儀なくされた。その他の会社員たちは、在宅勤務や自宅待機。世界の医療従事者は、昼夜休まず患者の処置にあたった
プレゼント 「ごめーん!!!待った?」 2019年12月。その日も、アヤのキャリアウーマンぶりは健在であった。 1時間の遅刻でアヤは到着する。聖なる夜を祝うために、シュンとアヤは、2人が出会った駅前で待ち合わせしていた。 駅前は幻想的な光に包まれ、辺りは幸せそうな男女で溢れている。 「いや全然!!」 シュンはここでも自分を殺す。殺すというより、これが彼の持ち味であり本心なのかもしれない。実に優しい男性だ。 そして予約した高級レストランへ光の道を歩
全ての始まり 2019年5月、東京。 先月28歳になったばかりのシュンは、今日も満員電車という戦場へ足を踏み入れた。彼の身長は165cm。いつも通り高価でも安価でもないスーツを着用。ブサイクではないが、イケメンとはほど遠い顔立ち。 彼の仕事は営業である。仕事成績はチームで平均的な順位。さほど高くないし、さほど低くない。部署では、頼まれたことは何でも引き受ける「何でも屋」としての地位を確立していた。 ビジネス的な実力はまだ身につけられていなかったが、同僚からは優しい