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たられば

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完結済みです。「死とは?」これは「何でも屋」と「高嶺の花」の物語。フィクション小説です。
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#連載小説

たられば〈9話〉

生きる意味  「うそだろ」  液晶画面は、自分がプレゼントした腕時計を映し出す。シュンは驚きを隠しきれず、一目散に家を飛び出した。  雪の影響で滑りやすくなっているにも関わらず、階段を1つ飛ばしで降りて行く。自動ドアのロビーで一時停止するも、そこからは全速力で事件現場へと走った。      走ること10分、シュンの体から季節外れの汗が大量に噴き出す。  「あと少し。」  自分を奮い立たせた瞬間、アヤと過ごした思い出がシュンの頭の中を巡った。 出会いはシュンの

たられば<4話>

giverとtaker 2020年5月。 「これが収まったら同棲しよう。だから大丈夫。俺らなら大丈夫。」 真夜中の2時、電話越しでシュンは必死にアヤを励ます。 それは2人に自宅待機命令が下され、2ヵ月が経過していた頃である。   この年の初め、世界では感染症が大流行した。国内には観光客が消え、町には人が消え、飲食店・観光業など多くの業界は休業を余儀なくされた。その他の会社員たちは、在宅勤務や自宅待機。世界の医療従事者は、昼夜休まず患者の処置にあたった

たられば<3話>

プレゼント 「ごめーん!!!待った?」  2019年12月。その日も、アヤのキャリアウーマンぶりは健在であった。  1時間の遅刻でアヤは到着する。聖なる夜を祝うために、シュンとアヤは、2人が出会った駅前で待ち合わせしていた。  駅前は幻想的な光に包まれ、辺りは幸せそうな男女で溢れている。  「いや全然!!」  シュンはここでも自分を殺す。殺すというより、これが彼の持ち味であり本心なのかもしれない。実に優しい男性だ。    そして予約した高級レストランへ光の道を歩

たられば<2話>

全ての始まり 2019年5月、東京。  先月28歳になったばかりのシュンは、今日も満員電車という戦場へ足を踏み入れた。彼の身長は165cm。いつも通り高価でも安価でもないスーツを着用。ブサイクではないが、イケメンとはほど遠い顔立ち。  彼の仕事は営業である。仕事成績はチームで平均的な順位。さほど高くないし、さほど低くない。部署では、頼まれたことは何でも引き受ける「何でも屋」としての地位を確立していた。  ビジネス的な実力はまだ身につけられていなかったが、同僚からは優しい