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「ボールの握り」と野球肘

先週まで行われておりました
U-18W杯・サムライジャパンの戦い、世界レベルの高校生の野球は攻守ともにレベルの高いプレーが多くみられました。

ピッチャーでは夏の甲子園を沸かせた
石川県・星稜高校の奥川選手のカナダ戦から奪った三振が
注目されましたね。

ご覧になっていた方も多いのではないかと思います。


彼の武器は150km/hを超えるストレートと大きく縦に曲がるスライダー


また近年、日本のプロ野球でも
「ボールの回転数」が注目されています。

テレビ中継でも回転数を表示するものがみられるようになってきました。

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回転数が多いとバッターからは球がホップしたような軌道に見え、
球速以上に速く感じるといわれています。

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そこで今回は、
ボールの握りと障害の関係についてnoteでまとめました。

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■負担の少ないボールの握りとは

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今日活躍しているプロ野球の投手の球種は
鋭い変化のするボールや
ストレートに近いスピードでバッターの芯を外すような変化など、
さまざまなものが現れています。


今回は変化球の解説は割愛し、
ストレートでも一般的な握りである
4シーム」について解説したいと思います。

|4シームと2シーム

「4シーム」
縫い目(シーム)の向きを表しています。
ボールが1回転する間に縫い目が4回通過するものを指します。

※同様に2シームは2回、1シームは1回


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プロ野球・巨人の菅野智之投手や
メジャーリーグカブス・ダルビッシュ有投手などが
投じる「1シーム」は魔球といわれ、注目が集まりました。


4・2・1シームはファストボール(速球)とくくられますが、
これらの変化のちがいはボールの回転軸による
変化や空気力学的な要素であるといわれています。

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|負担の少ない握り

4シームは図のように
人差し指と中指を縫い目にかけ、
人差し指‐中指‐親指で二等辺三角形をつくります。

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なぜ、二等辺三角形がよいのでしょうか?

実際にやってみましょう!

・二等辺三角形のつくれた握り
・親指がボールの下に届かない握り
・ボールを5指でつかんだ握り

で比較します。

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|チェック

①肘を曲げる
②掌(てのひら)を上に向けた状態で握る
③掌を下に向ける(手首をかえす)

比較すると、

二等辺三角形握り(図中左)では、
手首が返しやすいですが、
それ以外ではわずかに動きにくさを感じるかと思います。

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このわずかな前腕の動きの制限が肩やカラダの動きにも制限を生みます。

つまり、これは投球動作にも大きくかかわってきます。

投球フォームに関わる影響については、
後にまとめていますので、ぜひ最後までお読みください。

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■指の力が球速に関係する

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投球時の指の感覚は十人十色、選手によってさまざまな感覚があります。

「切る・抜く・はじく・押す・・・」

投手を経験したことのある方はよく聞くワードではないでしょうか。

しかし、これを具体的に指導するのは難しいです。


投球フォームの違いは球速に関係するのか?
(※あくまで、熟練した選手間によるデータです)


【球速と投球フォームの研究】
140km/hと150km/hを投げるピッチャーで動作にどんな違いがあるのか?

‐結果‐
・速度の差において、「フォーム」に大きな違いはない
・唯一の大きな違いは、投球時の「指にかかる力」に大きな力の差があった

<リリース時の人差し指と中指の力の方向性がポイント>


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上の図から
投球をするボールの方向に対して、
ボールにかかる力が「下向き」にかかるとよいとされています。

逆に前方向(投球方向)に力が向いてしまうと
回転数が抑えられてしまい、
速度を求めるのは難しくなっていくとなります。


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■ボールの握りがフォームに与える影響

正しい握りができないと、
腕を内側に捻る動きがしにくくなることを前の項でお伝えしました。

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つまり、
内側に腕を捻ることができない分、肘が高く上がらず、
「肘の下がったフォーム」を生みやすくなります。

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※握りだけが原因ではなく、投球動作の発達による問題もあります。

少年野球でもこういったフォームで投げる選手は
よくみられたりするのではないでしょうか。

・・・・・

|チェック

実際に、
2枚の写真の姿勢をとったまま、
投げる動きをしてみましょう。

すると、
肘の下がったフォームでは腕が後ろにいかないため、
腕がロックされたような感覚をされると思います。

つまり、
肩が開かないため、肘にものすごい負担がかかります。

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手の小さな子供は
ボールを持つときに、「二等辺三角形握り」をすることができません。

こういった選手にはいくらフォームを治しても治りません。

それは、ボールを正しく
「握れていないこと」が原因であるからです。

つまり、正しく握れるまでは、
カラダの成長を考慮し、投球フォームの修正よりも
投球数制限をしてみていくことが
選手の将来を見据えた指導といえると思います。

フォームの詳細は次の機会にまとめたいと思っております。
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■ボールの握りのチェックポイント


チェックポイント

①指のチェック


親指と小指をお互いにくっつけてみましょう。
くっつけた指はまっすぐになっていますか?

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くっついたら、そのまま掌(てのひら)を上に向けてみましょう。



【小学生高学年投手を対象とした調査(スポ・ラボ)】
この2つの動きができない選手のうち
75%が肩や肘を痛めたことのある選手であった

というデータがあります。

また、
小指が曲げられないと肘の痛みを招きやすいデータもあります。

肘痛既往群の投球側小指には屈曲運動制限があり、有意差があった
これは投球の繰り返しに伴う屈筋の機能低下を示唆している
(肘痛の既往を有する野球選手にみられる小指屈曲運動制限 より)

指の動きはしっかりと出しておきたいですね。

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②ボールの握りチェック

人差し指、中指‐親指で二等辺三角形をつくれていますか?

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③フォームチェック

肘の下がったフォームになっていませんか?

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まとめ

・負担の少ないボールの握りは
人差し指‐中指‐親指でつくる「二等辺三角形握り」である。

・球速の差は投球フォームよりも
指の力」が大きく関係してくることもある。

・「正しい握り」で投げないと
投球フォームに影響が出て、投球障害につながることがある。

・正しく握れるまでは、
投球フォームの修正よりも「投球数制限」をすることで故障を防ぐ。

つまり、

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今回は、ボールの握り方をテーマにお話をさせていただきました。

野球肘・野球肩は野球のスポーツ障害として代表的なものですが、
指や手といった動きの問題により
肘・肩への負担を大きくさせてしまうことがあることも少なくありません

中高生になると、手も大きくなりボールを十分に握れるようになりますが、カラダの発達に差の大きい小学生では筋力が弱かったり、手が小さいことによってケガを招くこともあります。


野球肘の原因を現場で判断することはとても難しいと思います。

セルフチェックで選手を管理し、
現場レベルでできる投球障害予防に取り組んでいただけたらと思っています。

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参考文献

1)新しい少年野球の教科書 ‐科学的コーチングで身につく野球技術‐

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