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ある日のダサい先輩と大人な後輩

「今の生活気に入ってるんだけどね、ときどき『結婚さえすれば、今のこの悩みが全部気にならなくなるかもしれないのに』って思うときはあるの。
もうね、楽になりたいの。」

気の置けない職場の後輩と飲みながら、こぼした本音だった。

彼女が新人のときわたしはトレーナーを担当し、その後も5~6年、同じチームで働いた。トレーナートレーニーの関係性って少し特殊で、何年たってもお互いにとって少し特別な相手だったりする。
ずっといい関係だったわけではないけれど、今はお互い古巣を離れて別の部門にいることで先輩後輩というよりも“なんでも話せる元同僚”のような関係になり定期的に飲みに行っている。
出会った頃は22歳だった彼女も先日31歳になった。


同じ部のオタサーの姫と化した後輩がやりたい放題なこと。
それをおじさんみんなが許してチヤホヤしていること。
いまの部門では成長する機会がないと感じていること。
嫌いを通り越して、憎くて無理すぎるマウント同僚のこと。
そのマウント同僚が近所に自慢の旦那と娘と住んでいる息苦しさ。
結婚したかった元恋人2人と会社でエンカウントすること。
その他もろもろ。

そろそろ耐えられなくなってきたんだよねぇ…

ビールを飲みながら、勝手に言葉が出てくる。どうやら思った以上に悲しみや憎しみ、怒り、やりきれなさが煮詰まっていたらしい。
わたしは気を許した相手には汚い気持ちや暗い思いを吐露してしまう癖があって、帰ったあといつも自己嫌悪する。
だから今日は先輩らしく。余計なことは言わないようにしようと思っていたんだけど……
酔っているわけでもないのにドロドロした気持ちをこぼしてしまい、話しながらあたしダサくて醜いな。と冷めた目で自分を見ていた。


「こんな風に誰かを嫌いになったりするのも嫌だし。結婚すれば悩まなくなるのかなぁ。それとも辞めるしかないんかなあ。」

友達には「辞めれば」と即答されてきた。正論だ。だから答えはわかってる。でも……


でも、諦めたくないですよね?
 だって、私たちこの会社のことすきだから。」

後輩が言う。

いい会社だと思うし、働きやすいし、優しい人が多いし。わたしたち、色んな人に大切に育ててもらってきたじゃないですか。頑張ったらちゃんと評価もされてきた。いい環境ですよね。
それにこうやって、昔一緒に苦労した仲間と飲みにいって思い出話をしたり愚痴ったりできるのも簡単に手放したくないものだったりしませんか。
こむぎさんが辞めるって決めたらもちろん応援するけど寂しいし、仕事ぶりも思いも知ってるから『辞めたらいい』なんて、わたしは言えませんよ。


彼女の言葉に、行き場のなかった悲しみが少しほどける。

わたしが大切に思っているものを同じように大切に思っている人と会話できたことが、心の中の淀みを晴らした。

トレーナーだった頃のわたしは、まさか数年後にこんな風に彼女に支えられるとは思っていなかったな。これも、大事に積み上げてきたものの結果なんだと思う。

帰り道、いつものように『わたしばかり喋りすぎてしまった……』『嫌なやつすぎた……』と脳内反省会を繰り広げているわたしのそばで、「あ~今日も楽しかったー!」「こむぎさんと飲むと楽しくてお酒飲むのも忘れる!わたし喋りすぎちゃいました~」って笑ってくれていたから少し安心した。お互い「しゃべりすぎた」って思っているらしい。不思議。

「やる気がなくなってダラけてるとね、不思議なことにじいちゃんが『真面目にやってるか』って電話をかけてくるんです。
真面目にやってれば、ちゃんと誰かが見てる。いいことある』っていうんです。近くに不真面目な人や嫌な人がいて、そういう人達がいい思いしてると頑張るのが馬鹿らしくなりますけど、いつも通り真面目にやってたら絶対いいことあるって信じましょ!」

「じいちゃーーーん!!わたし頑張るよ!」
「お互いがんばりましょー!」

とりあえず目の前の仕事に一生懸命むきあうぞ!と宣言して解散する。

できることなら汚い自分じゃなくてキラキラしている自分をもう一度この後輩にも見せたいし、すぐに答えはでなくてもいい方向に向かっていけるように何をすべきか考えていきたいな。とじんわり思った。


余談だけど
感謝の気持ちと誕生日祝いと、あと先輩の自我で今日は全額出すと最初から決めていた。(普段は2/3 or 全額 と、まちまち)
彼女がお手洗いに行っている間にこっそり会計したところなかなかびっくりする額でオウッ!?ってなっちまった。物価高やば~~。

かっこいい先輩への道は遠い。

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