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血圧140、眼圧18の単位を知っていますか?

(はじめに)


 大気圧は、1気圧というのが、実感としてわかりやすいです。1気圧を101325Pa(パスカル)なんて言われたって、実際よくわかりません。昔天気予報では、「950ミリバールの台風が接近しています。」などと云っていましたが、今は、なんだか馴染みのない「950ヘクトパスカルの台風が接近しています。皆さん充分お気をつけて下さい。」などと云っています。なに、このヘクトパスカル?我々の世代だって、これじゃあ、尺貫法に慣れていたのに急にメートル法になった私たちの父母の世代と同じ状況みたいです。人が一食で食べるコメの量は、1合と言っていたのに、180ミリリットルと言えって、政府が言うのです。1合の方が分かりやすいじゃないですか。最近、内科のお医者さんや眼科のお医者さんに行って、血圧や眼圧を測ってもらうのですが、140とか18とか言われます。しかし、この圧力の単位はなに?まさかヘクトパスカルじゃあないよね。単位をいって貰わないと、数字だけ言われてもなんだかよくがわかりません。
 このお話は、圧力の単位についてです。
 

(1)トリチェリの真空


 それで、気圧の単位のはなしもどります。私、大学で熱力学というのを30年も教えていました。それで気圧については、少しばかり、詳しいので、以下、ちょっと知ったかぶりをしてみます。
 昔、大気圧中、つまり1気圧で、1端を閉じたガラス管の中に水銀を満たして水銀浴中で縦にまっすぐ立てた人がいました。そしたら、ガラス管の上の方に隙間が出来ました。水ならふつう隙間が出来ないのになぜだろう(1)。それも、水銀浴の表面から、必ず760 mmの高さまでは水銀柱があるのに、その上は隙間になっている。この隙間には何が入っているのか? その疑問を追及していて、イタリア人のトリチェリという人はその隙間が真空であることを発見しました。実際はごく低い水銀の蒸気が入っていますが、ほとんど真空と言っていいです。それで、この真空状態をトリチェリの真空ということになりました。
 サイホンの原理から分かるように、760 mm Hgの水銀柱と、大気圧が釣り合っているので、水銀の表面を大気圧が、水銀を760mmまで押し上げていることがわかります。つまりそれだけの力が、大気圧というものなのだと、トリチェリは気がついたのです。だから、彼は、次のように1気圧を定義しました。
 
1気圧=1 atm = 760 mmHg = 760 Torr
 
ここで、mmHg = Torr(トール、またはトルと発音)です。単位Torrは発見した人のトリチェリ(Torricelli)から来ています。
こんなに分かりやすいのに、いまさら何で、圧力の単位をパスカル(Pascal)なんてフランス人の名前にしろっていうのでしょう。フランス人のエゴじゃないかと、イタリア人のトリチェリは思うのでした。これは、冗談です。
 

(2)グローバルスタンダードの国際単位系の圧力の単位がパスカル(Pa)


今まで、物理の単位系がバラバラだったので、質量の単位にキログラム kg、長さの単位にメートル m、時間の単位に秒 s を用い、この 3 つの単位の組み合わせでいろいろな量の単位を表現するものに統一する事に、国際的になりました。それでそれに外れている今までのmmHgやTorrは、圧力の単位として用いられず、パスカル(Pa)なったのです。
 
因みに、換算式は次の通りです。
1 atm = 760 mmHg = 760 Torr = 1013 mbar = 1013 HPa(ヘクトパスカル) =101325 Pa       (2)
 

(3)内科のお医者さんで血圧を測定


前期高齢者になって内科のお医者さんに行ったところ、血圧を測られ、「血圧140を超えています。高いですね。もう薬を飲みましょう。」といわれました。それで2年ほど前から高血圧の薬を飲んでいます。4週間ごとに、医者に行くと血圧を測られ、「なかなか良くなってきましたね。」と言われている昨今です。ところで血圧も140とか単位をつけずに、皆さんおっしゃいますが、理系の私には、単位が何なのかどうも気になって仕方がありません。たとえば、「140 mmHgとか140 Torr」って、先生単位をつけて言ってください。

(4)眼科のお医者さんで眼圧を測定


眼科に行ったら、やはり「眼圧が21、ちょっと高いですね。」なって言われ、一体何の単位なのか、理系の私はここでも気になってしまいました。それで、調べてみたら、この眼圧の単位も、mmHg, Torrでした。「先生、21mmHg」って単位をつけて言ってください。無名数で言われると、私はよくわからないです。
 

(おわりに)


圧力の単位は、世界標準のパスカルで言いましょうという事になってから、だいぶたつようですが、お医者さんの世界は、まだ、昔通りのmmHgなんですね。世の中、急には変わらないとう事でしょうかね。じゃあ、1合、1尺、1貫目って、今も使っていいんじゃないかねぇと思う私でした。
 
 
平成31年(2019年)4月21日 随筆
令和5年(2023年)9月22日 加筆
 
*なお、冒頭のトリチェリの肖像画は、下記のURLのWikipediaから引用させて頂きました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AA
最終更新 2022年4月14日 (木) 18:00
 
注(1)  1気圧で、1端を閉じたガラス管の中に水を満たして水浴中で縦にまっすぐ立て、水柱が10メートルを超えると、水でもトリチェリの真空が見られます。
注(2)  Paはつぎの計算から出て来きます。
1気圧では水銀中の高さは760㎜、水銀の密度は13.6g/cm3、重力加速度gは9.807m/sec2なので、1 m2あたりの力Fは、
F = mg = 760(mm) × 13.6(g/cm3)× 9.807 (m/sec2) = 101325(kg/m2)
国際単位系にそろえて単位をkg/m2になるように計算すると、101325 となり、これをPaと定義。

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