【ラノベ紹介】『ステラ・ステップ』感想

「少女たちが強いられたのは〈道具〉として、――ただ歌うこと。」


今回ご紹介するライトノベルについて

 今回ご紹介するのは、MF文庫Jから発売されているライトノベル、『ステラ・ステップ』です!

 林星悟先生が送る、荒廃した世界で戦争のための道具として使われる、アイドル達の物語。
 『ポストアポカリプス』+『アイドル』という、ちょっと変わったジャンルの組み合わせのお話になります。

 隕石の襲来によって、一度文明が滅びた世界。この世界におけるアイドルは、そんな現代における戦争の代役。
 『戦舞台(ウォーステージ)』――ようするに、ライブ対決によって勝敗を決め、その結果で土地や資源の奪い合いが発生する。そんな世界でした。
 勝者は英雄として讃えられる一方で、敗者が待つ運命は悲惨なもの。一般的なアイドルモノであれば芸能界の黒い噂とか、同業者の妬み嫉みとか、そんな舞台裏のシビアな一面があったりもするんですが、この小説の場合それとは別方面でシビアな世界です……!

 主人公の少女『レイン』は、最強のアイドルでした。一度も戦舞台で負けたことのない、最強の存在でした。
 ですが、そんな彼女は舞台以外には無頓着で、他のことはもちろん、自分のことすら気にかけない。そんな彼女の在り方は、人間というより人形のようで……。
 感情に囚われないからこそ、誰よりも舞台の上で軽やかに歌い、そして踊れる。レインは、そういうアイドルでした。

 そんなレインの連勝記録は、リハーサルという名の非公開の舞台で、人知れず断たれることになります。
 彼女を負かしたのは、鈴木花子という名前の少女――レインが名付け、『ハナ』と呼ばれることになる、デビュー前の新人アイドルでした。

 ステージの上で精一杯歌い、踊り、天真爛漫に笑顔を振り撒くハナ。
 最高の舞台を寸分の狂いもなく再演するレインとは対照的で、彼女にとってハナのステージは異質そのものでした。
 これまであらゆる物事に無関心だったレインは、この敗北がきっかけとなり、ハナに興味を持つようになってゆく、というのがあらすじ。

 燦々と輝く太陽に照らされ、氷が溶け出すかのように動き出す物語。……ですが、この物語の面白いところはここからなのです!


この作品はここが見どころ!

 例えるなら月と太陽みたいに、対象的な性格のレインとハナ。
 感情に乏しいレインが、感情豊かなハナと触れ合う中で、人形として動かされるのではなく、自分の意思で動くようになっていく。
 ここまでなら順当なアイドルモノ、少女の成長を描いたサクセスストーリーなのですが、ここからが衝撃の連続ですっ!

 二人が交流する中で、レインはアイドルの裏に隠されていた真実に触れることになります。
 それはあまりに衝撃的な内容で、それと同時に読者がこれまで抱いていた違和感が徐々に紐解かれていきます。前提から覆るような怒涛の展開は、目を離せません!

 もちろん、レインがこれまで不要だと思って捨ててきた、大切なものを取り戻してゆく。その過程も本当に素敵。
 捨ててきたものが重くて、大きくて、それでも一歩ずつ前に進み、感情を取り戻してゆく。
 彼女が自分の意思で「歌いたい」と告げるシーンは、ここまでの過程を読んでこそ響くものがあると思います……!


私の総評

 二人の成長、アイドルのサクセスストーリーとしての一面もあれば、隠されていた世界の核心に触れるシリアスな展開もあり、それらが上手いこと調和している作品でした。
 舞台の上で輝く星々のように、思わず目を奪われてしまうような強烈な作品。一巻としての最後も思わず続きが気になってしまうような終わり方で、これから先の二人がどうなるのか楽しみです!

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