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「ツバメの巣」その堅牢な造りの秘密

春の到来を告げ
人の生活に密着する渡り鳥

 暖かくなり、今年もまたツバメの季節がやって来ました。翼を翻して自由に飛び回るその渡り鳥をみるたびに、長く感じられた冬の終わりを体感できます。
 
 春を代表するこのツバメは、カラスなどの天敵からヒナを守るため、民家や施設などに巣をつくります。そのため人の目につきやすく、糞公害などの被害も目立つ鳥でもあります。2010年に大阪府吹田市で行われたツバメの巣の調査では、人の手で壊されたと考えられる巣も報告されており、人の生活に近い分、共存が求められる鳥といえるでしょう。共存はまず相手を知ることから始まる、と私は考えているので、改めてこの鳥の、巣そのものについて調べようと思いました。

春の訪れを知らせるツバメ

泥・藁・唾液の3要素が
6羽ものヒナを支える

 ツバメの巣の素材は、藁や枯れ草と泥、そしてツバメが分泌する唾液です。広東料理で食材として使われる「燕の巣」は、アナツバメという種の巣なので、私たちがよく目にするツバメとはまた異なります。
 ツバメの巣内にはだいたい3羽から6羽のヒナが育ち、同じ巣で1シーズン2回の育雛(いくすう)をするケースもあります。成長していくヒナたちの体重を支えるため、巣は頑丈で長く維持できる耐久性が必要となります。この堅牢さの秘密について、ツバメの巣を模倣して作成したある実験で、明らかになったことがあります。

ツバメの剥製と巣
(大阪自然史博物館にて催された特別展の展示)

 その実験では、ツバメの巣を作成した際(あるいは崩れたツバメの巣を元にして、巣を作成した際)、土のみを素材にした巣は簡単に崩れ、藁を混ぜたものでは強度が上がった、という結果が出ました。さらに擬似唾液として「ムチン(糖たんぱく質)」を使用すると、さらに高い強度が生まれることも明らかになりました。土、藁、唾液の3つの素材を用いることで、強度の高い巣ができるようです。

素材不足でもろい巣も確認
親鳥の努力の結晶を大切に


 巣の設営に3つの素材が必要なツバメですが、最近では泥や枯れ草の確保が難しくなっているそうです。そのため、バランスが悪く強度不足の巣も確認されているとのこと。

 もしかすると、私やみなさんがみかけるツバメの巣は、親鳥が子どもたちを育むために苦労して素材を集めた、努力の結晶なのかもしれません。人の手で安易に壊されることなく、大切に守られてほしいと切に願います。

巣から飛び立つ親鳥のツバメ

参考文献
・細川博昭『身近な鳥のふしぎ』ソフトバンク クリエイティブ 2010年
・中野あゆみ「ツバメ類の巣に唾液は含まれているのか〜巣の強度の向上に必要な物質を探る〜」公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団 科学教育振興助成 令和4年度 成果報告書 2023年
・「吹田の郷 2010年8月 第70号」NPO法人すいた市民環境会議 2010年

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