テクノロジーと市民参加 - Civic User Testing Groupという取組み
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テクノロジーと市民参加 - Civic User Testing Groupという取組み

はじめに

この記事では、アメリカのいくつかの都市で実践されている、市民向けアプリをテストする一般市民のコミュニティであるCivic User Testing Group(以下、CUTGroup)を紹介します。

以前からこういう仕組みがあると良いなと思っていたものですが、恥ずかしながらつくば市での事例を聞いて初めて知りました。
この記事では、Daniel X. O’Neil とSmart Chicago Collaborativeによる「The CUTGroup Book」の内容を一部日本語訳し、CUTGroupについて紹介します[1]。

CUTGroupとは?

もともとはシカゴでDaniel X. O'Neil氏が立ち上げた、Smart City Collaborative (現在は、City Tech Collaborative)という団体で行われている活動です。

この活動を簡単に言うと、「一般市民が報酬を得て市民向けアプリをテストするコミュニティ」です。シカゴでは、現在1,600名以上の市民が参加する取り組みとなっています。また、シカゴ以外では、デトロイト、マイアミ、クリーブランドなど全米各地に広がっています。

シカゴ市はオープンデータの取組みでも先進的な都市ですが、そのデータを活用した地域の課題解決を目指すサービス開発を支援するエコシステムが存在しています。この全体のイメージを図にすると以下のようになります[2]

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しかし、このサービス開発では「どうやってエンドユーザーである一般市民にとっての利便性を検証するか?」ということが課題となります。実際、シカゴ市でもシビックテックによるイノベーションをうまく成り立たせていく上で、市民との継続的な関わりが欠けていることへの問題意識がありました。

この課題に応えるのがCUTGroupです。ニーズや問題意識を取り込んでいくために、市民を開発プロセスに巻き込みます。市民がテスターとしてアプリを評価し、フィードバックする仕組みです。


CUTGroupでの実践プロセス

市民がアプリを評価するテスターになるとして、それを実際にどうやって実現しているのか?例えば、母集団をどうやって形成するのか、リテラシーに差がある人々へどうテストを依頼するのか、などいろいろと気になります。

まず、CUTGroupの活動には3つの要素があります。それは、
・UXテスト(ユーザビリティテスト)
・デジタルスキル
・コミュニティエンゲージメント
です。

デジタルスキルについて補足すると、CUTGroupで扱うのはテスターにとって新しい技術となることが多いため、初歩的なデジタルスキルのトレーニングを行うという工夫です。イメージとしては、10~20人のテスターが同じ部屋に集まっているとして、その人々でお互いに学び、教えあいます。これにより、参加者同士の交流を促進しつつテストの質も高め、さらに全体の満足度も高めるということを実現しています。

ちなみに、テストの依頼元である開発者に対してもトレーニングは行われます。これは、プロダクトに対するフィードバックを収集するためのテスト設計方法や住民参加の仕方などです。

当たり前のことですが、CUTGroupの活動を成立させるためには、大規模でかつ多様なテスターの母集団が必要です。では、この母集団をどうやって形成しているのでしょうか?

参加する市民のメリット
・報酬が得られること(グループに入ると$5のVISAギフトカード、テストに参加すると$20のギフトカード)。
・自分たちの生活をより良いものとする新しい技術、サービスに対して意見を述べられること。
・コミュニティに参加することで、新しいスキルや知見、多様な参加者との関わりを得られること。

母集団形成の方針
・多様な人々が参加し、あらゆる経歴、経験、デジタルスキルを持った人を受け入れています。
・当初は多様な地域での採用を通じて包括性を促進することに重点を置いていましたが、現在はそれを拡大し、CUTGroup内の代表者を増やすために、障害者コミュニティなどの特定の集団に焦点を当て始めているようです。
・テスターの募集は、チラシ配りやメールマガジンなどで広げていったようですが、最もうまくいったのはインセンティブ付きの友達紹介キャンペーンだったようです。

テストを開始するまで
1. 原則として、開発者からの依頼に基づいてテストを実施します。
2. 開発者とテストをどのように実施するかを検討します。ちなみに、テスト対象は必ずしもβ版や既にリリース済のものでないようです(ペーパープロトタイプについてもテストを行ったことはあるようです)。
3. テスターの選定。具体的な質問を通してユーザーを選別し、テスト対象に関連がある人々を選びます(例:レストラン検索であれば、Yelpにレビューを書いていますか?など)。
4. テストで行う質問の設計。

テスターとのやり取りはメールで行っています。基本的な方針として、メールベースのコミュニケーションでテスターの情報を収集することで、テストに向けたセグメンテーション精度を高めていくということのようです。

ちなみに、テスト時にはテスターと別にプロクターというテストの実施監督を行う方も参加しますが、これもボランティアの方(だけかはわかりませんが)が担っているようです。


コロナ禍での変化

CUTGroupがスタートした当初は、リアルな場で参加者全員が顔を合わせながら取り組むものでした。しかし、昨今のコロナ禍で同じことを行うのは難しい部分もあります。。

どのような工夫をしているのかなと思い直近実施されたテストのレポートを見てみると[3]、リモートでのテストを実施しているようです。

リモート開催で課題となるのは、CUTGroupではテスト参加者にデジタルスキル、技術へのアクセス、接続環境の状況などを求めていないことです。例えば、リモートでテストを行おうと思っても必要な機器を持っていなかったり、接続環境が無い人もいる可能性があります。

ただ、一方で、リモート接続のための環境さえ整えることができれば、これまで交通手段が限られていたり、子どもや仕事の関係で参加できていなかった人々が参加できることになるというメリットはあります(接続環境が無い人には、消毒済みのキットを送付したようです)。

実際の事例

公開されているテスト事例をもとに、実際にどのような形でテストが進んでいるのかを紹介します。前述のリモート環境でのテストが行われた、unBailというアプリを例にします。

このアプリは、重罪または軽罪に直面している市営および郡営裁判所の被告人へ、公判前情報をナビゲートするためののもです。また、裁判を待っている間、刑務所に収容されている被告人の家族や友人にも役立つことを目的としています。

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(アプリHPより)

コロナ禍ということもあり、リモートでの実施となりましたが、実際のテストは以下のように進められました。詳細なテスト結果についても公開されています[4]

ユーザビリティテストでは、テスターから口頭で回答を得るだけでなく、プロクターがテスターがどのようにアプリを操作しているかを視覚的に観察し、主要なタスクを完了させることで、テスターがどれだけサイトをナビゲートし、情報を見つけて理解できるかを評価しています。この問題を軽減するために、チームは事前にプロクターのトレーニングを行い、Zoomとスクリーンシェアを使ってテストを実施しました。また、セッションは同意を得た上で録画し、分析時に結果をより詳細に確認できるようにしました。
(訳は筆者。プロクターは前述のようにテスターとペアになるテスト監督者のこと)

このテストはCUTGroup ClevelandとCity Techの協働で進められたため、テスターはクリーブランドの住民でした。また、アプリの特性を踏まえ、市や郡の裁判所などを利用した経験がある方を前提に募集され、13名のテスターが参加しました。この中には、実際に判決を受けた経験のある方も参加したようです。

テスト結果は以下のようになっています。

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(CUTgroup Cleveland: unBail App Usability Testより)

テスターは、ホームページのカテゴリーは使いやすいがアプリ下部アイコンは直観的に理解しづらいなど利用する上で分かりづらいと感じる点への指摘や、情報のパーソナライズ化など利便性を高くするために必要と感じる要素を指摘しています。また、そもそもの観点として、いつ誰に使われるものなのかわかりづらいというターゲットユーザーについての疑問なども出ています。

テスト結果を踏まえて、CUTGroupを運営するCity Techでは、タイムラインの中で最も重要な情報には専用のセクションを設けて分かりやすくすることや、アプリを最初に利用するときのオンボーディングを追加することなどを提案しました。

この例のように、テスターがつまづいた部分や分かりづらかった部分を元に、どのような改善を行うのが良いか、についての提案もCUTGroupから上げているようです。


おわりに

この記事で取り上げたCUTGroupは、市民の生活をより良くするためのサービスを市民自身が評価することで、開発中から市民を巻き込んで進めていく仕組みです。開発者だけでは集めることが難しい、多様な背景を持ち、かつ提供したいサービスのターゲットユーザーとして適切な人々の意見を聞くことができるということが、この仕組みの魅力だと思います。

では、CUTGroupのような取組みを国内で導入するとしたらどうするのが良いでしょうか。いくつか方法はあると思います。アイデアとしては、一つは、Code for Xのような地域のシビックテック団体と自治体が協働すること。もう一つは、自治体が独自に整備すること。つくば市のような例に加え、神戸市で行われているネットモニター制度のような既存の制度にこうした側面も持たせていくことです。

現在、スタートアップなどの先進的なプロダクトを持つ企業と実証実験を実施する自治体が増えています。一方で、その実証実験に参加した市民を、その後コミュニティにできているでしょうか。また、そもそもターゲットとなる市民をうまく集められているでしょうか。
もし積極的に参加してくれる市民がいれば、その方々はこれから先も新しいサービスを考えていくときに力になってもらえる可能性があると思います。単発で終わらせず、コミュニティとして育てていく取組みができると良いのではないか、、と思います(もちろん、その維持と運営には大きな熱量が必要になると思いますが)。

最後に、CUTGroupのコンセプトが印象的だったので紹介します。インクルーシブな行政デジタル化を考える上でも重要な観点だと思いました。

If it doesn't work for you, it doesn't work.

参考

記事中の引用元
[1] The CUTgroup Book  (CC BY-SA 4.0ライセンスで提供されています)
[2] 公共分野におけるデジタル変革をいかに進めるか(JR Iレビュー 2017 Vol.3, No.42)
[3] Giving Residents a Voice, Remotely: Civic User Testing Amid COVID
[4] CUTgroup Cleveland: unBail App Usability Test


This work is licensed under a Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International License.


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「人とまちの関係性をデザインする」Groove Designs取締役。まちづくりのDX、行政と市民がともにつくる協働まちづくり支援、行政のデジタル化などが主な仕事。政府CIO補佐官/福岡市DXデザイナー。OKRが好き。 https://groove-designs.com/