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はじめてOKRを導入するときに知っておきたいこと

はじめに

先日、OKRを実践したときの自身の学びについて記事を書きました。
その後様々な方とOKRについて話す中で、「あー、確かにこういうところ難しそうだな」「こういうところ気になるよなー」という気づきがあったので、今後OKRを導入する方への参考になればと思い、まとめてみました。
経営管理手法としての使い方ではなく、一人ひとりにとってどういう意味があるのかという観点を重視して書いています。

この記事の内容

・なぜOKRを導入するのか、どういう意義があるのか。
・初めてOKRを作るときにハマりがちなことと、その解決案。

なぜOKRを導入するのか

OKRを導入するモチベーションとなるのは、おそらく、
・変化が激しい環境の中で個人により自律的に動いて欲しいという組織としてのニーズ。
・働き方やライフスタイルの多様化の中で、自分の志向性とあった仕事をしていきたいという個人のニーズ。
があるのではないかと思います。

また、最近はエンゲージメントという言葉もよく聞かれるようになりましたが、以下の図で示すように個人と組織がWin-Winの関係を持つ中で高い成果を目指すという組織づくりに取り組んでいるところも増えているかと思います。

谷内篤博「個性を活かす人材マネジメント」(p.130の図より一部修正)

OKRはこうした組織と個人それぞれのニーズの変化や、組織と個人の新しい関係性の中で有効に機能するツールだと思います。

OKRの意義とは

OKRを導入する意義をもう少し具体的に、仕組みと併せて解説します。
OKRとよく対比されるのが、MBOです。前提として、MBOが悪い仕組みだというのではなく、どういう組織を作りたいかによってどちらを導入するのが良いのかは異なります。

この記事も参考まで。

「MBOもうまく使えばOKRと同じようなことが実現できるんじゃないの?」というのが最初に一番よく聞かれる質問なのですが、個人的には運用面、特に報酬の決定に直接連動するかどうかというのが一番大きな違いとなってくると考えています。

少しズレますが、報酬には逆効果性というものがあり、以下のような負の側面があると言われています。

1.報酬は罰になる
2.報酬は人間関係を破壊する
3.報酬は理由を無視する
4.報酬は冒険に水をさす
5.報酬は興味を損なわせる
6. 報酬は使い出したら簡単にひけない
7.報酬はそれを得るための手抜きを選ばせる
(個性を活かす人材マネジメントより)

こうした逆効果性を最小限にするためには、個人の真の動機付けを行なっていくために、Collaboration(個人間の協力の推進)、Content(仕事内容)、Choice(個人の選択の幅を広げる)ということが必要だと言われます(アルフィ・コーン「報酬主義をこえて」)。

MBOは個人のパフォーマンスがそのまま報酬に連動するため、目標を野心的にする、周囲と協力するといったインセンティブが働きづらくなります。

一方、OKRでは、達成度が報酬と直接連動しないことや(OKRは成果を最大化するためのツールであり、達成度ではなく出した成果に対して適切に報酬を与える)、個人が心から取り組みたいことを選択し、オープンにしてチームで協力して取り組んでいくことが組み込まれています。

まとめると、個人的な解釈としてはOKRの意義は以下のようなものだと思います。

・自分自身が仕事を通じて成し遂げたいことに向き合う、きっかけとなる。
・より高い成果を出すための優先順位を可視化する、ガイドレールとして活用できる。
・チームで協力して目標達成に向かうようになる。


OKRの構造とは

OKRはシンプルな構造です。チームとして成し遂げたいことの中で、この3ヶ月程度でフォーカスしたいことをOKRとして設定します。分解すると、Objective(目標)とKey Result(その成果指標)、そして、日々の行動におけるPriority(優先順位)をつけて進めていくというだけです。ただ、具体的な日々の行動に活かすイメージがなかなか持ちづらいかもしれません。

実際に会社全体で導入する場合などは、上位のOKRがあり、それを元に下位のOKRを作っていくということも考えていきますが、上図はある特定のチームに絞った場合です。

Objective(目標)は「何を」達成すべきであり、定性的になることが多いと思いますが、具体的で行動を促し、心から実現したいとチームメンバーの誰もが思うようになることが理想です。
一方のKRとは、この目標をどのように達成しつつあるかをモニタリングするための基準です。KRは測定可能であり、検証可能であることが重要です。

後で解説しますが、個人的な経験として最初に作成するときにハマったのは、
・Objectiveの時間軸や抽象度がうまく設定できず、具体的なアクションにつながらない。
・KRが目標達成の基準となっていない。
ということでした。

OKRを作るときにハマりがちなこととその解決案

最初にありがちなこととしては、以下があると思います。

1. Objective(目標)の時間軸や抽象度の設定で悩む
これは、いくつかパターンがあるため、ケースごとに説明します。

まず、中長期で達成したい状態像(ビジョン)をそのまま目標にしてしまった場合。具体的なKRが立てづらくなるのに加え、達成までにそもそも時間がかかるため、日々のサイクルを回していても目標へ進捗している実感が持ちづらくなります。そうすると、OKR自体へのモチベーションも下がってきます。

目標を立てたあとは、以下のような観点でチェックしてみると良いと思います。

・これからの3ヶ月で一番重要な、取り組むべきことか。
・具体的になっているか。この目標を見るたびに、達成に向けた具体的なアクションを起こせそうなイメージが湧くか。
・自分自身が燃えられる、高い目標になっているか。

目標は「処方薬並みに強力なクスリであり、慎重な服用と厳しい管理が必要だ」と言われるほど、思った以上に人の行動を左右します。誤った目標を掲げてしまうと、どれほど素晴らしいKRを立てても成果は生まれません。場合によっては途中でピボットして、目標自体の修正も行うことも必要だと思います。

また、次に起きがちな悩みとしては、ある程度時間がかかる前提のプロジェクトでOKRを用いようとしたとき、3ヶ月という期間だと逆に短すぎて中途半端なOKRとなってしまうという場合。

この場合は、2通りやり方があると思います。
一つは、プロジェクトとしてのOKRを大きなマイルストーンごとに分解して、プロジェクトとしてのOKRは持ちつつ、日々の取り組みは分解したOKRで推進していくというやり方。


もう一つは、1年くらいのOKRであればそのまま運用してしまい、チームの中で短期(3ヶ月くらい)と中期(1年くらい)のOKRが混在することを許容するというやり方。この場合、Objectiveは1年くらいで達成するものとするが、KRの時間軸をより短く設定し、達成したら更新していくというようにすることで対応するのが良いと思います。

2. KRをどう立てれば良いのか分からない
最初はKRをどう作れば良いのかが一番悩むのではないかと思います。
まず、「KRが全て達成できたとき、目標が実現された状態と言えるかが重要です。

参考として、以下のようなポイントで考えていくとわかりやすいのではないかと思います。

・目標の内容を要素に分解し、各要素について構造化してみる(例えば、お客様を喜ばせるという目標だったとしたら、お客様とは誰か?喜ぶとはどういう状態か?をそれぞれ考えていき、尺度となるものをKRにしていく)
・KRがタスクリストにならないようにする(週次のPにおけるようなことをKRにしない。あくまで目標を達成する基準として考える)
・KRと目標の達成時間軸は同一でなくて良い(目標が1年かかるものだったとして、あるKRは1ヶ月で終わるものだったとしても良い。終わったら更新していく)
・現状では掲げている目標は達成できていないはずなので、何によってそう感じているのかを考えてみる(この部分が不足していることが課題だとしたら、それを実現することがKRに繋がってくる)

3. KRが定量化できない
これもありがちです。主に質を測定したいときに悩むケースが多いと思います。あくまで例ですが、以下のような考え方もあります。

・アンケート、NPSなどでスコアをつけてもらい、それを指標にする。
・(他者に)理解する、知ってもらう、浸透する、などの状態像を目指したい場合は、何をもってそれが実現したと言えるのかを考えてみる(理解度などはアンケートで必ずしも測れない。ベンチマークとして置く人を設けたり、ランダム抽出した人に聞いたり)。
・AとBを比較するなど、変化によって起きたポジティブな効果を検証できるようにする。

4. チームOKRが正直よくわからず、個人で立てるOKRと紐付けしづらい
これも最初は起きる悩みしれません。(そもそもチームリーダーはじめチームとしてOKRに慣れていないうちは起きて当然だと思うので、そんなもんだと思って取り組んでほしいです)。
解決策としては、例えば以下があると思います。

・分からないということを正直に伝える。自分は個人としてこういうOKRを立ててみたいがどこが具体的に噛み合わないかを話し合う。
・チームリーダーは、それをチームや自分への否定と捉えない。よりチームが進化するためのチャンスと考える。
・リーダーとメンバーとで、チーム全員が燃えて取り組むためにどのようなOKRであれば良さそうかを建設的に話し合う。チームリーダーのみの責任としない。

5. チームによってOKRに求めたいコミット感が違ってくる
これはどういうことかというと、例えば営業チームだと予算目標など数値目標が明確であるケースが多いので、OKRは6~7割で良いと言いつつ、必達目標はどう置いたら良いの?という悩みです。

この記事の末尾でも紹介している「Measure What Matters」でも書かれていますが、やり方としては、コミットOKRと野心的OKRというのを置くことでカバーしていきます。
コミットOKRの場合は、そもそもそれがコミットメントであるということを明示し、チームとしても合意します。ただ、野心的OKRの場合は、チームとしてどういうことを成し遂げていきたいのかということに基づいた目標となってくると思います。

コミットOKRだけだと個人にやらされ感が生まれてしまいますが、野心的OKRと組み合わせていくことで、チームとして目指したい姿に近づきながら守るべき目標も達成していくというチーム作りができるのではないかと思います。

6. OKRをたくさん作りすぎてしまう
最初にOKRを作るとき、OKRを何個も作ってしまうこともあります。
同じタイミングで追うOKRは何個にするのが良いでしょうか?

OKRに限らず、目標の数が5つ程度を超えるとすべての目標について達成度が低下するという研究結果もあります。個人的な実感としても、OKRが5つを超えるとOKRのそもそもの目的であるフォーカスが実現しづらくなるという感覚があります。

これを避けるには、
・OKRは重要なことにフォーカスするためのガイドレールであるということを改めて思い出す。
・本当に重要なもの以外は捨てる覚悟を持つ。
・定常的なタスクをOKRにしない。
などを意識すると良いと思います。


おわりに

長々と書きましたが、OKRはあくまでツールです。OKRを入れれば組織課題が解決するものではなく、例えば文化や評価制度なども組織として何が必要なのか、どういう組織にしていきたいのか、など考えていく必要があります。また導入してすぐはうまくいかないことも多いです。

ただ、組織と個人がWin-Winになり、より高い成果を上げていくためにOKRは非常に有効なツールになると思います。

OKRを実際に導入していく上では、以下の本が参考になると思います。2冊目の方はより具体的な運用についても記載されています。



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