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自治体でのOKR活用について


先日この記事で行政でのOKR活用について海外事例を紹介しました。
その中で、アメリカのニューヨーク州シラキュース市についても触れましたが、同市の前CDO Sam Edelstein氏が書かれた以下ブログについて、ご本人から翻訳許可をいただいたので、この記事では(拙い訳ですが..)全文をご紹介します。

そもそもOKRとは?

記事の内容に入る前に、そもそもOKRって?という方向けに改めて概要だけ説明します。OKRはObjective-Key Resultの略で「組織において、全員が同じ重要な課題に全力で取り組むようにするための経営管理手法」です。

OKRは以下の要素で構成されます。

Objective(O): 目標と訳されることが多いが、何を達成すべきかを示したもの
Key Result(KR): 目標をどのように達成しつつあるかをモニタリングする基準

もう少し詳しく知りたい方には、いつもこの本をお勧めしています。

簡単に知りたい場合はこちらなど。

では、以下から記事の内容となります。


自治体でのOKR活用について

多くの組織では、目標に対する進捗状況を把握するために、何らかのパフォーマンス管理システムを使用しています。What Works Citiesのような組織が、市政府がより多くのデータを活用して意思決定を行うことを支援しているおかげで、この取組みはさらに一般的になってきています。

シラキュースでもそれは同じです。データ、エビデンス、測定値を用いることは重要であり、成功した政府運営のビジョンへ至る要素です。シラキュースでは、目標設定と進捗管理に「Objectives and Key Results(OKRs)」と呼ばれるモデルを採用しました。

OKRは、アンディ・グローブによって開発され、インテルで使用されていましたが、現在ではGoogleを含む世界で最も成功している企業の多くで一般的に使用されています。ジョン・ドーアの著書『Measure What Matters』には、OKRの詳細や成功例が紹介されています。この手法では、具体的な数値目標ではなく、高い目標を設定します。そして、達成されれば目的を達成したことになる重要な結果を設定します。キーリザルト(KR)には具体的な数値目標があり、その目標を達成するための期間は3ヶ月から長くても1年程度と短くします。

OKRを使う理由

OKRには野心が必要です。良いOKRとは、簡単には達成できないものです。政府のサービスは一貫して提供されており、大規模な変革を行うことは非常に困難であり、場合によっては全く必要ないこともありますが、変革が必要な分野は数多くあり、しかも迅速に行う必要があるのです。OKRはこのような場合に最適です。というのも、目標は簡単なものではなく、もしかしたら手の届かないところにあるかもしれないので、多くの場合変更が必要になる可能性があるからです。

OKRにはオープンさと透明性が求められます。通常、OKRを採用している企業では、目標が設定され、社内の誰もが閲覧できるようになっています。私たちはコミュニティのために仕事をしている地方政府なので、これらの目標を徹底的に透明化しています。http://dashboards.syrgov.net(このサイトはJesse Casesが作成したものです)をご覧ください。何を達成したいのか、それを達成するための課題は何か、どのように進んでいるのか、といったことをオープンにしています。往々にして数字の成果は素晴らしいものではありませんが、オープンになっているということこそが重要なのです。

OKRには調整が必要です。特に政府には多くの縦割り組織があります。組織間のコミュニケーションは非常に難しく、時には意図的にそうしていることもあります。オープンで透明性のあるOKRを持つことで、すべての部門が優先事項を把握し、どの部門がそれに集中しているかを知ることができます。もし、他の組織から助けが必要になったり、アイデアが出てきたりしても、どこに助けを求めればいいのかが簡単にわかります。

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(シラキュース市のOKRダッシュボードより)

OKRの活用方法

OKRの設定 - 最初のステップは、組織のOKRを決定することです。私たちは、現場スタッフの仕事を手引きする部門の仕事を手引きするようなトップレベルのOKRをいくつか持つべきだと考えています。(トップレベルのOKRはこちらです: http://dashboards.syrgov.net/ )

その後、私たちの部門は各部門と協力して、自分たちの仕事が各OKRのどこに最も適しているかを決定しました(※OKRは部門の仕事のすべてをカバーしているわけではなく、重要な部分のみをカバーしています)。各部門は自分たちで取り組むキーリザルトを選ぶことができました。私たちが唯一求めたのは、野心的であることでした。例えば、公共事業部が「路面のくぼみを埋めるのにかかる日数」を目標にした場合、現在よりも良い結果を出す努力をしてほしかったのです。これまで10日以内にくぼみを埋めていたのに、1カ月以内に埋めたいと言っても、良いキーリザルトにはなりません。各部門は、良い結果が得られたことに概ね満足しており、今後もさらに多くの部門に導入していく予定です。

部門長会議の準備 - 毎週水曜日に行われる市長主催の部門長会議では、会議の半分を目標(Objective)のうちの一つに集中しています。市長レベルの目標は4つあるので、すべての目標をカバーするために4週間のサイクルを使用しています(他の問題を扱うために議題の自由な週を1週加えています)。会議の約1週間前に、私たちの部門は次の部門長会議で扱われる目標に関係する部門と数字を確認し、異なるキーリザルトに対するこの1ヶ月の進捗状況と、部門長会議で解決すべき課題について話し合います。

部門長会議 - この会議では、各取り組みの責任者であるシニアスタッフが、各部門からの最新情報とともにプレゼンテーションを行います。他の会議出席者は、数値について質問したり、改善方法を提案したり、他の方法では必ずしも議論されない OKR に関連するその他の問題に取り組んだりします。この会議はいつも実りあるものではありませんが、手ごたえがあるときの会議は見ていて楽しいものです。さらに、他の部門のリーダーに、市内の他の場所で起こっていることを伝えることができます。例えば、査定部門は水道部門が何を計画しているか知らないかもしれないので、議論は有益です。

部門長会議のフォローアップ - ほぼすべての会議で、次のステップや来月の目標、追加の分析やプロセス変更の必要性についての議論が行われます。私たちの部門がその手助けをすることもあれば、各部門が自分たちで作業を行うこともあります。

データ>イノベーション>説明責任 - OKRへの取り組みを始めた当初、私たちは、データ、イノベーション、説明責任を含む、改善を促進するための循環的なプロセスを考えていました。具体的な目標とキーリザルトがあれば、プロセスのボトルネックを明らかにするデータ分析から始めるか、作業が必要な特定のケースを識別することができます。次に、問題を解決するための革新的な考え方を促すための支援を行います。これは、プロセスの改善の場合もあれば、人々が互いに話し合うようにする場合もあり、また、まったく新しいことをする場合もあります(Adria Finchがこの革新プロセスをリードしています)。そこで出た革新的なアイデアはテストされ、進捗状況が測定されます。そして、各部門が責任を持ってその新しいアイデアを実行し、業務の一部として定着させていきます(これは大変なことです!)。その時点で、OKRにポジティブな変化が見られるようになるはずです。

また、このプロセスを経て、私たちの部署の名前「Office of Accountability, Performance, and Innovation」が決まりました。各単語の最初の文字であるAPIには、ソフトウェア開発における別の意味があります(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)。その文脈でのAPIの目的は、複数のシステム間の通信を可能にすることで、開発者がソフトウェアを作成するのを支援するツールとリソースのシステムであるということです。私たちは、それと同じように、部門間のコミュニケーションを可能にすることで、より良い結果をもたらすことができると考えています(プログラミングと同じように、私たちのプロセスにもバグはありますが!)。


課題

データの正確性 - 物事を数えるのは難しいことです。政府で行われているプロセスはしばしば複雑です。プロセスを追跡するために使用しているソフトウェアは時代遅れだったり、パフォーマンスマネジメントプログラムを簡単に実現できるように作られていなかったりします。OKRに関するほとんどすべての会議で、データが正しいかどうか、他に何か原因があるのではないか、などについて長い議論を行い、すべてを正確に報告しているかどうかを常に確認しなければなりません。これは必要なことですが、いつも難しく、一筋縄ではいきません。

野心と透明性 - 私たちは野心的なOKRとそれに対する透明性を大切にしていますが、期待通りの結果が出ない数字を見るのはつらいものです。しばしば、各部門から、他に起きている良いことや、何かがうまくいった特定の事例について報告するよう求められることがあります。私たちは、人々が自分の達成感に満足することが重要であると考え、これを全面的に支持します。

しかし、シニアスタッフには、たとえ時間がかかったりうまくいかなかったりしても、物事をより良くするための努力をサポートするように注意しています。OKRのポイントは、すべての目標を達成することではありません。むしろ、達成されない重要な結果が常にあるように、十分な野心を持って設計されるべきです。もし、すべてのOKRが簡単に達成できるものだったら、私たちは正しいことをしていないことになります。このミーティングでは、窮地に追い込まれているように感じてほしくありません。サポートしつつも、改善を期待するべきです。

現場スタッフとのコミュニケーション - 私たちは通常、各部門のトップレベルのスタッフにOKRプロセスと期待値を理解させることに成功してきました。それにより結局、彼らはほとんどの目標を設定しています。しかし、現場のスタッフに期待値を理解してもらうのは非常に困難です。市には1,800人の職員がいて、さまざまな種類の仕事をしています。彼らにOKRを理解してもらうのは難しいのです。また、現場のスタッフが自分でOKRを設定することで、最終的には全体の進捗につながっていくからです。まだまだ、これからですね。

成功事例

下水道 - OKRの1つに、同じ問題を解決するために市職員が再訪する回数を減らすというものがあります。そのためには、1回目で完全に問題を解決することが望まれます。市が繰り返し連絡を受ける分野の一つに、下水道の逆流があります。インフラシステムが老朽化しているため、下水道が課題となっています。下水道についてのデータを見て、指標を改善する方法を検討していたところ、隣の事業開発部が、家庭の下水道問題を解決するために郡から助成金が出ていることを紹介しました。これは、部門長に問題が提示されたことで、より良いコミュニケーションの機会が生まれた例です。この会議の後、下水道局は助成金プログラムに関するチラシを持参するようになりました。

許認可 - 住宅や事業所の改善や開発のための許可を承認することは重要ですが、これまで多くの種類の許可を承認するのに長い時間がかかっていました。許可証の審査にどの部署が最も時間をかけているかなど、許可証の時間を具体的に検討した結果、許可証の承認スピードが大幅に向上しました。

予算編成 - 市がどのようにお金を使うかは非常に重要であり、また予算の遵守も重要です。昨年度の予算に対する支出のばらつきは11%でした。これは、一定額を支出すると考えていたのに、結果的に11%少ない支出になってしまったことを意味しています。支出過多よりも支出過少の方が良いのですが、予想していたお金を使っていなかったということでもあり、投資ニーズの多い都市では、その分のお金を他に使うことができたはずです。予算の支出をより厳密に管理することで、予算の差異を5%以内に収めることができました。これは、わずか1年間での大きな進歩です。

OKRはすべての問題を解決したわけではなく、やるべきことはまだたくさんありますが、私たちはOKRが与えてくれる進歩と道筋に期待しています。

皆さんはOKRを使ったことはありますか?そして、それは成功しましたか?


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