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海外事例にみる行政でのOKR活用の可能性

最近、海外の政府機関や自治体でのOKR活用の事例を調べていたら楽しくなってきて深掘りしてしまったので、国内でニーズは無いと思うのですが記事にまとめてみました。

そもそもOKRとは?

この記事では詳細の説明は割愛しますが、簡単に言うと、Objective-Key Resultの略で「組織において、全員が同じ重要な課題に全力で取り組むようにするための経営管理手法」です。

OKRは以下の要素で構成されます。

Objective(O): 目標と訳されることが多いが、何を達成すべきかを示したもの
Key Result(KR): 目標をどのように達成しつつあるかをモニタリングする基準

もう少し詳しく知りたい方には、いつもこの本をお勧めしています。

簡単に知りたい場合はこちらなど。


行政でのOKR活用事例1 - イギリスGDS GOV.UK

イギリスで行政デジタル化を推進しているGovernment Digital Service(GDS)では、GOV.UKというイギリス政府の統合Webサイトを運営しています。このチームでのOKR活用についてです。

プロダクトマネージャーのSteve MesserのブログでGOV.UKでのOKR活用について解説されています。

OKRを用いる上でどういう点を重視しているのか?について、OKRを用いる理由に触れている部分を引用します。

OKRの優れた点は、トップダウンのリーダーシップとボトムアップのナレッジワーカーを引き合わせ、コミュニケーションの場を与え、共通のビジョンに到達させることです。 そのためには、アウトプットからアウトカムへの発想の転換が必要です。チームは自分たちが組織の戦略にどのように貢献しているかを理解し、リーダーシップを発揮する人々は現実的な短期目標を設定することができます。

この部分はOKRを組織で用いる意味を的確にとらえていると思います。特に行政の場合は、単なる目標達成ではなく目的を達成すること(アウトカム)が重要です。OKRはそのために良いツールとなるということだと思います。

ちなみに、Steveが気前よく以下のスライドでOKRのテンプレートを公開してくれているので、もし真似してみたい方は参考にしてみてください(一般的なOKRの立て方と別に大きく異なるところはありませんが、GOV.UKでの具体的なOKRのイメージがつかめると思います)。→2021/9/9追記) 公開停止されたようです。残念。

また、GDS全体でのOKRの活用方針としては、以下の記事でも簡単に触れられています。

ポイントだけ抜粋すると、

・チームによっては、1年先までのロードマップを計画し、3ヶ月サイクルで取り組む。
・この四半期ごとの作業は「ミッション」と呼ばれ、OKRによって記述される。
・各四半期の計画プロセスでは、ミッションの優先順位、どのミッションを実施するか、予想される利益、依存関係、チーム規模及び誰がどこで働くか、を定義する。


ミッションを明確にし、その達成判断の評価指標を決め、具体的な取り組みのための体制を構築していくという一連の流れの中でOKRも活用するというのは、非常に合理的、効率的だと思います。


行政でのOKR活用事例2 - 自治体(アメリカシラキュース市)

行政でのOKR利用について考えるときに、政策とその評価に結び付けて活用しているところはないのか?ということが気になっていました。

そこで参考になる事例がアメリカのニューヨーク州シラキュース市です。シラキュース市の前CDO Sam Edelsteinが自身のブログで解説しています。

シラキュース市においてOKRを用いた理由が記事で触れらているので、引用します。

・OKRには野心が必要です。良いOKRとは、簡単には達成できないものです。政府のサービスは一貫して提供されており、大規模な変革を行うことは非常に困難であり、場合によっては全く必要ないこともありますが、変革が必要な分野は数多くあり、しかも迅速に行う必要があるのです。OKRはこのような場合に最適です。というのも、目標は簡単なものではなく、もしかしたら手の届かないところにあるかもしれないので、変更が必要になる可能性があるからです。
・OKRにはオープン性と透明性が求められます。通常、OKRを採用している企業では、目標が設定され、社内の誰もが閲覧できるようになっています。私たちはコミュニティのために仕事をしている政府なので、これらの目標を徹底的に透明化しています。(中略) 何を達成したいのか、それを達成するための課題は何か、どのように進んでいるのか、といったことをオープンにしています。往々にして数字は素晴らしいものではありませんが、オープンになっているということこそが重要なのです。
・OKRには調整が必要です。特に政府には多くの縦割り組織があります。組織間のコミュニケーションは非常に難しく、時には意図的にそうしていることもあります。オープンで透明性のあるOKRを持つことで、すべての部門が優先事項を把握し、どの部門がそれに集中しているかを知ることができます。もし、他の組織から助けが必要になったり、アイデアが出てきたりしても、どこに助けを求めればいいのかが簡単にわかります。


オープンさと透明性を担保するという観点で、シラキュース市では市民も見ることができるダッシュボードを構築しています。

一部画面を貼っておきます。

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Objective, KRそれぞれがわかりやすく可視化されています。

OKRを導入したことによる成果の例として、住宅や事業所の改善や開発の許可が迅速になったケースがあるようです。多くの種類の許可が必要となっており承認に長い時間を要していたが、許可証の審査にどの部署が最も時間をかけているかなど、具体的なデータに基づいて検討した結果、承認スピードが大幅に向上したというような事例です。

部門の壁を越えつつ、データドリブンに課題に向き合っていることがわかります。


まとめ - 行政でOKRを活用する意味とは?

今回2つの事例をご紹介しましたが、行政でOKRを活用することの意味は以下の3点に集約されると考えています。

1. 成果は何か、を関係者で認識をそろえて取り組むことができる。
2. 市民や国民に対するプロセスとしての透明性が担保できる。
3. 縦割りの壁をこえ、行政組織内で連携を促す仕組みができる。

とはいえ、実際にOKRを行政で導入するとなると難易度は非常に高いのではないかと思います。また、上記の3点を実現するためにOKRを入れればすぐできるというものでもないですし、OKR以外でのやり方もあるかもしれません。

それでも、不確実性が高く、よりスピード感をもって変化が求められている今、行政組織のあり方を見直していく中でOKRを活用することの意味はあるのではないかと思います。


本当は他にもいろいろと書きたいことはあるのですが、長くなるのでこのあたりで。もし行政でのOKR導入について議論したいという奇特な方がいたらご連絡くださいませ。。

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