【映画感想】クリード チャンプを継ぐ男

「ロッキー」のスピンオフ映画にして、新たなるシリーズを描けそうな傑作映画だった。
とはいえロッキーシリーズを振り返ってみると、当初三部作としてその幕を下ろすはずだった「ロッキー3」を観た時には「何だか最後にしては締りが悪いな」と思ったし、「ロッキー4/炎の友情」はロッキーはポーリーの誕生日にいくらしたんだかわかんない値打ちのロボット買ったりスーパーカーで弟フランク・スタローンの曲を聴きながら爆走したり、最終的には「ボクシングにゃ東も西もねぇ!!」などとアントニオ猪木みたいな発言したりという作品だったし、「ロッキー5/最後のドラマ」ではその金持ちっぷりはロッキーぽくないって破産させちゃうし町中でプロレスは始めるしで辛かったので、この「クリード」シリーズにも充分な注意が必要だとは思う。
まず、スタローンが良かった。
登場シーンからしてショボイ感じで地下室から上がってくるのが良い。一軒のレストランを仕切っている程度の貫禄はあるが、かつて世界チャンピオンになったボクサーだということを感じられるほどの威厳はない。もみあげに白髪を混じらせるというその心意気が良かった。かつてのスタローンなら、物語途中で自分のボクサー魂が火がついたあとクリードと共に特訓したらアンチ・エイジングに成功し、トレーナー役として佇む渋い俺に惚れる女がまた一人……なんて展開にしろ、と脚本家に注文をつけたかもしれない。しかし、このもみあげの白髪は、
「そういうことは今回ないですよ。ロッキー・バルボアは、もうボクサーとしての看板を完全に降ろした人なのです」
と宣言しているようにみえた。途中でみつかった癌も、ただただ放射線治療など、化学療法を頼みの綱として闘病する。ぼくは母をすい臓がんで亡くしているのだが、このロッキーの「がん治療で弱くなっていく人感」は凄かった。本当に癌になった人みたいだった。
「あのロッキーがこんなヨイヨイに……」
そう思っていたぼくだったが、最終的にロッキーは体力さえ落ちたものの、エンディングでは元気になっていたので安心した。ぼく同様、昔からロッキーを知っている映画ファンなら、この作品は涙なしには鑑賞できないだろう。スタローンがこの作品でゴールデングローブ賞助演男優賞を獲得したのが納得できる程良い演技をしている。
「主役のアドニスがリア充なのにボクサーとして大成したい気持ちがわからない」という意見をネットでみた。おそらくそういう事を書くのは貧乏な家庭に生まれ育ち、努力しても何も手に入れる事が出来なかった人なんだと思う。人間は、恵まれた環境に育ったら育ったで、その環境を維持するために多忙を極めている親と過ごす時間が欲しいとか、想い出は金で買えないとか言い出すものなのだ。つまり、アポロの忘れ形見であるアドニスは、男に生まれたから良かったようなものの、女だったら心の隙を埋めるがために援助交際に走ったりして、それをみていたYoshiという男がその顛末を携帯小説にしたためて、また違う作品に紡がれる人生を送っていたやもしれないのだ。
残念ながら吹替え版の上映は無いのだが、ソフト化された際には是非羽佐間道夫の吹替えで観たい。
本作を観るにあたっては、今までのシリーズとか観ておかなくても大丈夫。まずは本作でクリード、そしてロッキーという2人の物語に触れて、それから過去作を観返した方が、未見者はかえって良いかもしれない。そうすることで、
「アドニスの親父のアポロってこんなに凄かったんだ!! そしてロッキーってこんなに凄かったんだ!!」
という、ずっと追っかけてきた人には絶対に味わう事の出来ない新手の感動を得る事が出来るだろうから。
おしまい

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