隣人騒音に巻き込まれた時のハナシ

それはいきなりやってきた

 ネットニュースを読んでいるとコロナになってから在宅勤務が増え集合住宅での騒音が社会問題になっている記事が見かけるようになった。正直、他人事だった。
 当時住んでいたマンションはそれなりのお家賃がする分譲マンションを賃貸に出していたいわゆる投資用物件で建物自体は静穏性が高く、ハッキリ言って今まで住んできた賃貸で一番と言えるぐらい住み心地はとても良い物件だった。周辺環境(周辺に大人のお風呂屋さんや大人利用のホテルしかない)が致命的にアウトだったということを除けばだけれど。
 それでも、その界隈を抜けると商店街がありスーパーもありと生活するのに困らない。
 このまま何回か更新して住み続けるんだろうなぁ、と漠然と考えていた。

 ソレが起こったのは、本当にある日突然である。 
 
 転居を決める不動産物件の内見をした時に仲介不動産会社さんに許可を得て壁を思いっきり叩いたことがある。大の大人が力任せに壁を叩けばどんな感じになるのかは想像がしやすいが、この物件の壁。すごい。
 音が出ることなく壁に吸い込まれていく感じで音が全くしなかった。
 ニコニコしながら仲介不動産の社員さんは、静穏性に配慮してすごく分厚い壁になっているんで普通に生活していて壁にモノをぶつけたぐらいでは隣に聞こえることはないですよ、言った。ソレが最大の評価となり物件の契約を決めたその壁が。

 ミシミシと軋む音がする。いや。マジで。
 重量物が壁にぶつかって、すげー音がする。マジで。
 かなりの重量物を床に落とす振動が伝わって寝てると起きる。マジで。
 大音量の音楽が窓から回り込んで聞こえる。マジで。
 下手糞な歌も聞こえる。マジで。

 それも深夜の1時や2時。 

何もできない管理会社

 その隣人が転居してきた翌日に管理会社にさすが電話をしてクレームをあげた。さすがにこれは無理だ。うるさ過ぎるというか、全く意味が分からない。どうやら反対側の部屋も同じ状況で、なんと下の階や上の階、斜め上や斜め下、さらには向かいの部屋といったところからも一斉にクレームがあがったらしい。そりゃそうだ。
 
 管理会社の行動は早く、マンションの張り紙が掲示される。
 要約すると、1時2時頃の深夜にうるさくするなと。 
 普通であればこれで静かになるはずだが、この迷惑な隣人の取った行動もまた凄かった。
 1時と2時の間の2時間だけ少し静かになったのである。その代わり3時や4時といった時間に音が酷くなった。

 いや、そうじゃない。そういう問題じゃねぇから。
 
 張り紙はすぐに書き直され、23時~3時までうるさくするな、とかかれると、それ以外の時間では容赦なく音を出され、ついに22時~7時の間は静かにしてくれや、という張り紙に修正された。

 小学生かよ。
 
 そこまで時間が長くなった張り紙が出される頃にはこの迷惑な住人は時間を無視するようになり、もう音が駄々洩れ、振動がドシンドシン、壁はミシ ミシという凄い状態。
 静穏性がウリの部屋で何をヤレばここまで音が出せるか想像ができない。
 一度、管理会社に来てもらって状況を確かめて貰って、直接部屋に注意して貰いにいったが、この隣人、出てこなかったらしい。

 ちなみに、廊下にもドアから音漏れがしている。
 エレべーターを降りるとドアから漏れてる派手な電子音にゲンナリし、部屋に入るともっと音がうるさくなりさらにゲンナリ、という。

 耳栓をしても振動で起きて、どうしようもない。
 
 管理会社に何回か連絡を入れてみても、この迷惑な隣人は電話に全くでないらしい。緊急連絡先に連絡をしてもそっちは不通。どうやって不動産の審査通ったんだ?
 お手紙を何回か送っているが全くのナシのツブテらしい。

 直接、文句を言うことも考えたが、ここまでのツワモノ相手に何かやると逆ギレされて何をされるか分からないという恐怖心の方が勝った。

 そのうち夜間だけではなく、日中時間帯もうるさくなりはじめる。
 こいつ、どうやって生活費とか稼いでるんだろう?あんまりお安い家賃じゃないんだけれど。
 
 リモートワークをしていても気になって仕事に集中できなくなり、1日中耳栓をして過ごすようになって、しばらくして、ついに心が折れた。

次々と居なくなる同じフロアー住人達

 オッサンの心が折れる前に、他のフロアーの人達の方が早く心が折れた。最初に反対側の人が引っ越した。1カ月ぐらいで引っ越したと思う。張り紙が最初の修正をされてから1週間ぐらいで、もうダメだと悟ったんだろう。

 そして、上の階と下の階の人が引っ越して、同じフロアーの人も次々と引っ越していった。オッサンも引っ越しに備えて不動産物件を探していて、ふと自分の住んでいるマンションを探してみたら、このフロアーだけ何部屋も空き部屋になっていて、上の階も下の階もボロボロと抜けていってこのマンションだけが不自然に空き部屋が多い状況にまでになっていた。

 別の用件で管理会社に電話すると、このマンションを担当していた方は長期休養に入ってしまったそうだ。詳細は教えてくれなかったけれど、色々と察してしまった。

引っ越しという終戦

 オッサンは、他のエリアに物件を見つけて引っ越すことでこの騒音から逃れることができたが、家という場所は心も体も休める場所で、そこが脅かされるというのは本当にツライ。マジでつらい。

 どれだけ静かでいい物件を念入りに探して、そこに引っ越して住んでいたとしても、隣人の入れ替わりというどうしようもないイベントで台無しになってしまう経験をしたので、マンションや家を買うという発想は捨てた。ローンを組んだりしてそんな状況になったらリスクしかないというか、悔やんでも悔やみ足りなくなる。

 そもそも。
 なんで、普通に住んでいる人間が騒音を出す人間を避けるように出ていかないといけないんだろう。騒音を出す人間はなんで追い出されないのか。引っ越す費用もそれなりにかかるワケで、普通に住んでいる人間がこれを負担しなきゃいけないのはさすがに色々と考える。
 このやりきれなさは、とても悪い後味として、今も残っている。

 何かやれることがあったのかなぁ、と。
 まだ埋まることのない住んでいた自分の部屋を不動産物件サイトで見ながらそんなことを考える。
 騒音の主はまだそこに住んでいるようだ。

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