現場出禁になった時のハナシ その2
今も悩む。どうするべきだったか。
将来的な利益か、目の前にある利益か。それは誰の利益になるのか。
オッサンのようなヒト売りで働くフリーランスの人間にとっては目の前にある利益が最大限になる方向を追及するべきだが、変な立場に立たされて
しまうと目の前の利益だけを追求することが難しくなり、将来的な利益も考えないといけなくなる。
とあるグローバル企業の案件
海外にもたくさんの拠点があるとあるグローバル企業のある部門の仕事で自前のDCを閉じてまとめてDCを移設するという企画が立ち上がった。受け入れは某SI。某SIは自社のDCを拡張したばかりでそこに移設をして欲しいと強力に営業をかけたらしい。
某グローバル(以下A社)は、国内に移設するのであれば現在煩雑なオペレーションも全て手順書を整理し監視運用まで受け入れてくれるのであれば発注を考えるという追加の要望を出し、某SI(以下B社)はそれを受け入れた。よくありがちなDCのアウトソーシング化の案件である。
オッサンはそのB社のメンバーとしてA社の現場社内に入り、現在の運用オペレーションを分析しモデル化、手順化して、B社の運用・監視メンバーに引き継ぐといった半分コンサルのような形で働くことになった。モノによっては多少の構築があったが、まぁ、A社のDCに入って多少作業する程度。
全体的にあまり難易度が高くない案縁ではあった。
最初の違和感
かなり多くのオペレーションがある運用現場だったので、さっそく色々なオペレーションを実際にやってみて、効率化できるものは効率化して、手順化してB社の運用メンバーに引き継いでいく。引き継がれたオペレーションはB社の運用として次々と溜まっていき運用化されていったのだが、このオペレーションに脳みそを使う要素が全くないモノしかなかった。
A社のプロパーから指示があり、B社の運用部門が実施する。この繰り返しの単純作業だが、非定例要素が多く定例化することができない。いわゆるジョブに組み込んで自動化するといったことが出来ないようなものが多くどうしても人力が必要になり、B社の運用部門は少しずつ肥大化していく。
B社としてはDCへの機器移設も含めて運用を見ていくことを前提としていたので運用部門の肥大化は願ったり叶ったりだったようで、すぐにヒト集めて体制を整えていった。
いくつかのシステム、業務が定型整備され不足していたスクリプトなども個別で開発しシステムに組み込んでいく。荒れ放題だったシステムも運用に乗っていき手順と運用実績が少しずつ蓄積されていき、手順の不備はすぐに見直された。
そして、DC移設の本丸である機器移動に着手する際。
新規の機器が発注されず、既存の機械がスライドされることが決まったのである。これにはさすがに驚いた。ようは移設の間はシステムを止めるという判断をしたのだ。
A社はグローバルな会社だったので、自前の物流やら何やらを全力で投入し、恐るべき迅速さでブツを移動しほとんどミスもなく壊れるコトもなく設置し、B社はその設置された機器を動くように短期間で設定を入れて復旧した。事前に周到に準備された移行手順の通りに作業をし、これもほとんどミスが無く実施できたことで、A社はB社の作業にとても喜んだ。こんなにうまくいくとは思っていなかったと。
DCの移設に伴い、B社は全ての手順で修正が必要な部分が洗い出され、その修正も短期間で終わった。
ここでオッサンは、A社のこのプロジェクトの違和感を覚える。
新しい機器を発注しその機械で構築しなかったのか。自前のDCであれば既存システムに使われていた機械を徐々に片付けることもできたはずなのに。
買ったばかりの機器でもなく、3年目ぐらいでまだまだ使える機器だったからなのかと勝手に自分で解釈をして疑問を飲み込んだ。
次の違和感
オペレーションの依頼元が徐々に日本法人からではなく外国からであることが増えてきた。オペレーションの依頼は全てチケット制だったので日本から見た場合はチケットは日本語で見えているのだが、発行元が海外であることが多くなった。
依頼元が海外であろうが、手順はきちんと整備されているので迷うことなくオペレーションはすることが出来る。このあたりの優秀さはさすがB社。
スキルがない人間でも確実に安全に作業できる手順書を練り上げていた。そのころには運用メンバーもかなり増え、監視メンバーも増え、そこそこの大所帯になっていた。
オッサンは相変わらず業務をモデルに起こし、必要なプログラムの追加依頼や仕様調整、手順化などに忙殺されていたので、B社のDC運用部門のことはすっかり忘れていたのだが、何かの機会で(確か打ち合わせだったと思う)DCに訪問した時に、実際にオペレーションをしている手順書を見て気が付いてしまった。
このレベルまで無駄をそぎ落とした業務手順書と作業手順書があれば、日本人じゃなくて英語化するだけで海外でもオペレーションが出来るな。一回移設を挟んでいるので移設したとしても修正するべき場所も全て洗い出されている。
そもそも、移設先をクラウドに置き換えるなんて考えているのであれば新しい機械も必要ないんじゃないだろうか。全て海外に持っていくための準備、それがプロジェクトの本来の目的で、そのための壮大な移行リハーサルだったら?
そうなったら、B社はかなりの損失を出すことになるんじゃないのか?
喫煙所の会話、そして現場退場
A社の責任者の方とはタバコ繋がりで仲良くして貰っていた。たまたま家も近かったのでよく飲みにも誘われ、会員制のお高い店もこの方に連れて行かれてデビューをさせられた。
金曜日の夜も遅く終電間際だったと思う。
最後にタバコを吸ってから帰ろうかと喫煙所に行くとその責任者がタバコを吸っていて、軽い雑談をした後に、疑問に思っていることをそのまま口にしてしまった。
気味が悪く笑う、という表現はことためにあるものなんだな、という笑い方をして、笑いながら喫煙所から出て行った。
オッサンは、その翌月曜日にB社から出禁となった。
その後
2年後、B社のDCに移設された機器は全て廃棄となり代替DCとしてシステムは全てクラウドに移行された。そしてオペレーションは全て海外のA社グループ企業に移管され、B社の運用部隊は全て解散となった。海外に移管されたオペレーション実行部隊はとても優秀で、日本国内でやっていた時と遜色がないらしい。
コロナに入る前に、A社の責任者と高い店で飲んでいる時にこれを聞かされた。責任者は成功に導いたことでかなりの出世をしている。
何を失って、何を得たのか。
まだ分からないけれど、その時にB社の現場には入れなくなった。
そして、A社の責任者とは、ちょくちょく飲むようになった。
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