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口コミってどう広がるの(伝播の構造)

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。

第1章 デジタルネイティブ時代の情報接触
第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク
第3章 生活者理解のために必要ないくつかのこと
第4章 口コミが生まれる、広がる、その理由を科学
(2)口コミってどう広がるの(伝播の構造)

第5章 ファンを作るために必要なことはひとつだけ
第6章 オリジナリティとどこにもないストーリー
第7章 ファンを増やす、共感を得る仕組みと仕掛け


1.口コミが起きたり起きなかったりする理由を考える


第1章では、デジタルネイティブ世代の情報取得方法がGoogelやYahoo!の検索窓から、Twitter、InsttagramといったSNSにシフトし、「#」ハッシュタグを用いて、情報を手繰り寄せる傾向が強まっているという時代の変化をご紹介いたしました。

SNSのネットワークを通じて伝播する口コミのパワーは強く、口コミが生まれるか、広がるか否か次第で、自社の商品の認知度や、ブランドに対する共感量、あるいはロイヤリティの強さが決まる時代といっても差し支えないのではないかと思う程です。

従って、企業のブランド担当や、商品企画開発を行う部門、自社の商品を売り出した後、流通チャネルを通じてお客様に届けるタスクを背負っている営業企画部門、そしてメーカーのご担当に限らず、中小企業や個人事業主に至るまで、なんとか、自社の商品やサービスを広く知ってもらうために、口コミを起こせないか、使いこなせないかと、試行錯誤をしているのではないでしょうか?

しかしながら、口コミを発生させる、口コミの内容をコントロールする、あるいは、口コミの総量を最大化させることは、計画的に行えるものでしょうか?私は、口コミが起きたり、起きなかったりすることの要因を掘り下げた結果、口コミというのは、その発生や伝播の性質から、原則的にUncotrolable(ハンドリングするのは難しい)なものだと理解しています。

本項では、同じ商品でも口コミが起きたり、起きなかったりする要因を前節でご紹介差し上げた、「事前期待(想定)」と「事後評価」のGAPの構図を参考に、もう一段掘り下げることで考えてみたいと思います。

それでは、口コミが発生する構図と押さえておきたい特徴について、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

口コミ構造の整理

上記の図表の中央にあるのは、私が、お取引先の方から頂いたピエール・エルメ 大丸東京店のマカロン、だといたします。上部にいる青い人物を私だとし、図表の下部にいるのは、私と一緒に働いている女性だと致しましょう。

上部の私は、頂いたマカロンを一口食べた時に、はじめて食したという体験も相まって、「これは美味い・・」、「ふわふわさっくりもっちり」、「こんなおしゃれなお菓子があったのか」、という新鮮な感動と驚きを、例えば家族に伝えたいと思います。今度、機会があったら、家族へのお土産にしようと、心が動いたことを覚えています。


一方で、今回ご登場いただく女性は、もう少し細かくご説明すると、社長秘書なのですが、頂き物のマカロンを過去に召し上がったことがあり、マカロンの種類、フレーバー、味についても、以前食べた時の感想と変わらず「美味しいな」という評価になっているため、職場内で、ことさらピエール・エルメのマカロンについて言及することはありません。

ここで、同じ商品をお土産として頂いて食した2名の対応が分かれた理由はどこにあるのでしょうか?私は、図表の中で表現した、商品に対する「期待値」が異なっているからだと思います。

同じ商品を目の前にしても、初見の食品なのか、何度か召し上がったことがあるのか、によって、商品に対する期待値は異なります。初見の場合は、味や食感もフレーバーも想定できないため、「たぶんこんな感じ?」という見積もりにばらつきが発生します。

一方で、既に食したことがある場合や、ピエール・エルメのマカロンでなくとも、マカロンに日常触れている女性は、「マカロンと言えばこういうもの」というという物差しを持っており、マカロンの味や食感の見積もりにばらつきが少ないと想定されます。

この結果、両人の対応は大きく分かれました。私の場合は、食べたことがないマカロンへの期待を低く見積もっており、想定したレベルを大きく上回る美味しさ、という事後評価との間にポジティブなGAPが発生し、誰かに伝えたいという感情を持ちました。

秘書の女性は、元々知っている味で、たべる前の期待に違わぬ美味しさだったという評価のため、同じ商品を食し、いずれも美味しいという感想、評価を下した商品でありながら、その美味しさを誰かに伝えたい、というモチベーションが発生しなかった、という状況が生まれました。

ここでご紹介した事例のとおり、口コミが生まれるか否かをひも解くと、3つの点で複雑性があることがわかります。1つ目は、同じ商品、そして同じ美味しさを持っていたとしても、口コミが等しく生まれるものではないという事実です。

2つ目は、口コミが生まれるか否かを規定するものは、個人別に各々異なる、その商品やサービスに対する「事前の期待値や想定」であり、想定を上回る、あるいは下回るというGAPが生まれた時に、口コミ(良否あり得る)が生まれるという構造があります。

そして3つ目に、事前の期待値や想定の水準(高低)は人それぞれで持っているものであり、商品別に異なる物差しである、という評価の性質です。

口コミをハンドリングするということは、ひとりひとりが持つ商品への期待値を、ある水準に等しく調節したり、例えば、食品だと味や食感、フレーバーの感じ方をある範囲に納めてもらおう、と言っているに等しく、それは非常に難しいこと、というより、甚だ現実的ではないように思います。

口コミをハンドリングできれば、誰もが願ったり叶ったりではあるものの、発生する要因の複雑さを勘案すれば、原則的にUncotrolableだ、という理由をお分かりいただけたのでないでしょうか?

2.口コミが伝播する際に横たわる自分事化の壁


前項では、口コミというものは、実態があるようですが、掴みとるのが難しい、霞みのようなもので、こちらから捕まえにいこうとしたとて、なかなかに捕まえ切れないものだ、という特性をご紹介いたしました。

もちろん、最終的には口コミを科学し、少しでも自社の商品やサービスの良さをお伝えし、そしてブランドに共感を持ってもらうため、上手に活用したいところですが、口コミの活用、をテーマに挙げる場合、もう一つ難しさがあることを、口コミが伝播する構造面からひも解いてみたいと思います。

ここでのキーワードは「アクション」または「自分事化」だと思います。口コミが有効に働く、非常に大きな力を持つまでの伝播の構造を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

エンジン

第2章では、検索手段がSNSな時代の購買意思決定プロセスとして「ASIPS」というモデルをご紹介いたしました。

このASIPSモデルに沿って、口コミが伝播する構造を見ていきたいと思います。事例の商品は前項で取り上げたピエール・エルメのマカロンに再登場してもらいます。

起点は、SNS、例えばInstagramに投稿された色とりどりのマカロンの商品画像だとします。上記の図表で言うと「1st 投稿」に該当し、その投稿をご覧になった方の反応が「2nd 伝播と受容」にあたります。

投稿をご覧になった人の購買意思決定プロセスで言うと、ASIPSの「A Attention(注意)」にあたる「何の商品だろう」という気付きを得るタイミングです。ここで、次のステップである「S Sympathy(共感)」を得られるかどうかが、口コミが大きく広がるか、収束するか、一つ目の境目になります。

もし、ご覧になった方の中に色とりどりのマカロンに注目し、「なんか良さそうだ」というポジティブな心象や、「どのような味、フレーバーのバリエーションがあるんだろう」という気持ちが生まれたら、彼、彼女らは、「I Identify(確認)」のステップに進み、「#」ハッシュタグでマカロンの評価や味、フレーバー、またはお店の所在地などの情報を手繰り寄せ始めるでしょう。

ここから先、上記の図表でいえば、「3rd アクション」、ASIPSモデルでいえば、「P Participate(参加)」に行きつくか、という部分には、高くそびえ立つ壁があり、口コミが更なる大きな渦(スパイラル)を巻き起こせるかの境目になります。

「2nd 伝播と受容」と「3rd アクション」の大きな差異は、図表上の表現で申し上げると「自分事化」であり、ASIPSで申し上げると、マカロンの画像を見て、興味をもって、調べた、という、ピエール・エルメのマカロンを取り巻くコミュニティの外に存在しているか、一歩先に進み、「購入する」、「お客様になる」、「ファン」になる、という、ピエール・エルメのマカロンに関する情報を発信する「インサイダー」になったかどうか、だと考えられます。

情報発信の主体者として、インサイドに入ることを、ここでは「自分事化」という表現で言い表しており、情報を受け取る側から、情報を発信する側に移行する、という大きなアクションを促せるか、そのような人の心を動かす力が、マカロンの画像や口コミ自体に備わっていたかどうかで、この壁を乗り越えられるかどうかが規定されます。

そして、マカロンに対し、事前に見聞きし、調べた上で、味や、食感、フレーバーについて想像し、「きっとこういうスイーツだ」と事前に抱いた期待値と、実食した時の感想との間に、ポジティブなGAPが生まれた時、ASIPSモデルでは「S Share&Spread(共有と拡散)」として、紹介していますが、「みんなに教えよう」という、口コミのスイッチが押されます。

そして、ピエール・エルメのマカロンを購入した方たちの中で、「驚き」や「感動」、「共感」、「納得」といったスイッチが次々に入ることで、口コミは「4th スパイラル」として、台風の渦のように大きく成長していきます。

この口コミの渦を大きくするエンジンは、マカロンを召し上がった人、一人ひとりの内面で発生した事前期待(想定)と実食した際の事後評価のGAPの大きさの総量だと整理することができ、=(イコール)それが、口コミの持つ力だと言い表すことができそうです。

3.口コミの熱量の総和が自分事化を誘発する


前項では、口コミが伝播する構造面から、「2nd 伝播と受容」と「3rd アクション」の間に壁があり、口コミ自体に、人の心を動かし、アクションを促す力が備わっているかどうかが、口コミの渦が大きくなるか、収束するか否かの境目になることをご紹介しました。

本項では、口コミってどう広がるの(伝播の構造)のまとめとして、SNSの口コミが購買という具体的なアクションを誘発する構図と口コミが持つ力について整理したいと思います。

購買を誘発する口コミの熱量について、私が読み解いたモデルを簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

熱量の総和

まず、口コミが発生する契機であるスイッチは、(期待標準=想定評価)<実態評価という構図で、GAPが発生した場合に入ります。ここで、nさんが感じたGAPの大きさを「n(個人)の口コミ熱量」と表現しておりますが、人が感じる口コミの熱量は、皆一人ひとりが異なるものです。

一つ一つの口コミが持つ熱量は異なるものの、「みんなに教えてあげよう」と、各人が投稿した口コミの熱量(カロリー)を足し上げた総和が、ピエール・エルメのマカロンに関する口コミパワーとして表現することができそうです。

そして、インサイダー(当事者)として、ピエール・エルメのマカロンについて「S Share&Spread(共有と拡散)」された口コミは徐々に渦を巻くように広がっていき、SNSを眺めている、情報を手繰り寄せている人の気持ちを動かす力となり、次なる「3rdのアクション(自分事化)」を誘発した結果、「4thスパイラル」に至ります。

このようなポジティブな口コミのスパイラルは、ピエール・エルメにとって、色とりどりのマカロンの購買点数を増やすという実利的な側面に留まらず、ピエール・エルメのマカロンというブランディングの視点でも大きな資産になっていくものと考えることができます。

第4章(2)口コミってどう広がるの(伝播の構造)、では、口コミが起きたり、起きなかったりする理由を、人それぞれ事前の期待値が異なるという口コミの特性から読み解き、一人ひとりの口コミの熱量を足しこんだ総和が、口コミの渦を作る力の源泉であること、そして、口コミ自体は原則的にUncotrolableな性質を持つ点をご紹介いたしました

第4章(3)口コミのスイッチが入りやすい商品って何?、として、口コミが発生しやすい、書き込みがされやすい商品や、願っても口コミの熱量が上がりづらい商品について、商品が持つ特性面から読み解いてみたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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