名探偵のままでいて 小西マサテル
大好きな祖父に思いを馳せることはなかったけれど久しぶりにあのほっこりとした独特な空気に触れた。
一冊読み終えることにある程度は時間を費やしてしまうが、一気に読み終えてしまって少し切ない。本格的なミステリーでちゃんと怖かったが、ベースになっている「祖父と孫娘の温かな絆」が存分に伝わる素敵な作品だった。
日常にある謎を孫娘が祖父の元へと持ってくる。高齢で認知症を患い、自由に出歩けない祖父が華麗に謎を解き明かす、いわゆる「安楽椅子探偵」というものである。
推理の際に一本のタバコを吸う、「どんな物語を紡ぐかね。」というお決まりの台詞、犯人を取り押さえる際に登場した武術バリツ、本格ミステリーへのリスペクトとミステリー好き歓喜な展開を読んで、作者はミステリー作家であると同時にミステリーファンなのだと確信した。認知症の症状に悩まされてながらも頭のキレが抜群な祖父とおじいちゃんっ子の孫娘には家族の死という辛い過去を共有し、トラウマや幻視という形で2人を縛る描写がある。私はこの呪縛から解放されるシーンがすごく好きだ。賢く、聡明で、愛情深い2人でもこんな問題を抱えて生きているなんて、人間の複雑さを丁寧に伝えているように思えて、すごく感動した。
この本の帯に「亡くなった祖父と重なって心が温かくなりました。」とあり、この文章にも惹かれて買った。3年前に亡くなった祖父に思いを馳せるきっかけになるかと思った。実際、登場人物とは重ならなかったけれど、祖父との独特な会話のテンポ感というか穏やかな雰囲気を作中から感じることができ、懐かしくなった。
祖父は私をミステリー好きにした張本人である。元警察官で正義感強め、頑固さMAX、優しさもMAXな大好きな祖父だ。主人公である孫娘がおじいちゃんに話したい、聞いてほしい、意見を聞きたいという文が何度か出てくるが、私もそうで「おじいちゃんと会話がしたい。」というのが本質のような気がしている。もちろん作中では事件解決のためでもあるし、私自身、話すだけではなかったが、今思えば会話から得られるあの雰囲気を求めていたのかもしれない。
本格ミステリー×温かな家族愛が見事に調和した素敵な作品でだった。大好きな祖父に私もまた、話を聞いてもらいたくなった。
この作品には続編が出ているらしい、買わなくては。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?