なぜ紙でZINEを作るのか

浅草で開かれた「紙博」に行ってきました。

紙にまつわる色んなものを販売するこのイベント。紙でできたオシャレな雑貨や文房具、そして和紙などの素材としての紙そのものの販売が行われていました。

僕のZINEも紙で作っているので、「こんな紙もあるのか。この紙をZINEに使えないか」とか、「この紙は高いけど、販売ブースには使えるんじゃないか」とか、いろいろなことを考えながら会場を回っていました。

ZINEづくりをしてると、中に書かれる文章とか、写真とかイラストとかだけでなく、紙とか印刷とかのハードな部分にもこだわるのです。

そういえば、民俗学エンタメZINE「民俗学は好きですか?」を5年前に創刊した時も、理想の紙を求めて、いろんなお店をまわったなぁ。お店で実際にいろんな紙の見本の手触りを比べたりしながら、ようやく見つけたMUSE社の更紙を今でも重宝しています。

そんなふうに紙についてあれこれ考えていたところ、いま見ているNHK BSの連続ドラマ「舟を編む」でも、「紙の辞書を作って来たけど、会社からはデジタル化を迫られている。改めて紙で辞書を作る意義って何だろう」というテーマを扱っていました。

ドラマの中では、「『紙の良さ』を語っても精神論でしかない。上層部を納得させるには、紙の方が売れる・利益が出るということを実証しなければいけない」というなかなか耳の痛い話も。

ドラマを見て僕も改めて考えました。ネット全盛の現代において、紙でZINEを作る意味って何だろう。

こういうとき僕は、作品づくりに集中するクリエイターとしての考え方と、売り方を考えるプロデューサーとしての考え方を、わけるようにしています。

クリエイターとしての紙のメリットは何だろう。

それはやはり「読者に直接会える」ということでしょう。やはり自分の作品を手にとって、有料にもかかわらず「これください」と言ってもらえたり、「前に買ったやつが面白かったんで、新しいのをください」と言いてもらえたり、紙のZINEを直接売っているからこそ出会える場面です。

紙のZINEを売っているからこそ、「あの本屋ではZINEやリトルプレスも扱っているらしい。今度行ってみよう」とか、「こんな販売イベントがあるらしい。一度行ってみて、良さそうだったら出店してみよう」など、行動も増えます。

一方で、プロデューサーとして紙のZINEを売るメリットって何だろう?

それはやはり「読者に直接会える」ということでしょう。どんな人が実際に買ってくれているのか、男性が多いのか女性が多いのか、どのくらいの年代の人なのか、どんな雰囲気の人たちなのか、マーケティング調査だのアンケートだのをしなくても、直にこの目で見ることができるのですから。「こういうお客さんが多いから、じゃあこういうことをやってみるか」という企画も立てやすいです。

なんと、紙のZINEを作って売るメリットは、クリエイターとして考えても、プロデューサーとして考えても、全く同じ「読者に直接会えること」だったのでした。

そして、紙の方が細部まで作りこめるのです。作品の中身だけでなく、紙の手ざわり、印刷の感触、作品の大きさ、右開きなのか左開きなのか、表紙の紙はどうするか、中の紙はどうするか、細部までこだわって作りこめる。

その一つ一つにどんな意味があるかはいちいち読者に伝わらないけれど、細部まで作りこむことで全体として一つの世界観がZINEの中に生まれる。

そういった作品を手にすることができる。作者のこだわりの詰まった宝物を手にすることができる。それがお客さんにとっての、紙のZINEを買うメリットなのかもしれません。

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